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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第三章 武術師範、名を知られる
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武術師範、宿を決める

一週間後。


メタリア王国王都――マスティアパペルツ。


四人は昼過ぎに王都へ到着した。


高くそびえる白い城壁。


石畳がどこまでも続く大通り。


行き交う馬車。


露店から漂う香辛料の香り。


武具を身に着けた冒険者。


制服姿の騎士たち。


その全てが、エンターサンドとは比べものにならない。


「でっけぇ……」


ビルが思わず声を漏らした。


シャーロットも周囲を見回す。


「人も多いし、お店もいっぱい」


カミリーは地図を広げながら静かに呟く。


「王都の人口はエンターサンドの何十倍とも言われている」


「道に迷わないよう気を付けよう」


ヤスヒコは変わらぬ足取りで前を歩いていた。


「まずはギルドだ」


三人は慌てて後を追う。



王都冒険者ギルド本部。


巨大な建物だった。


吹き抜けの広間には数え切れないほどの冒険者が集まり、受付には長蛇の列ができている。


「すご……」


ビルは思わず立ち止まる。


受付で手続きを済ませると、職員が資料を確認しながら口を開いた。


「ウスイ・ヤスヒコ様ですね」


「ガレス様より推薦状を受け取っております」


「五級昇格審査は一ヶ月後になります」


「一ヶ月か」


「申し訳ありません」


「現在、審査待ちの冒険者が多く……」


ヤスヒコは首を横へ振った。


「構わん」


職員は続ける。


「その間は通常通り依頼を受けていただいて問題ありません」


「同行のお三方も同様です」


手続きを終え、四人はギルドを後にした。



「一ヶ月もあるんですね」


ビルが言う。


「その間、どうしますか?」


ヤスヒコは歩きながら答えた。


「まずは宿を決める」


「それから考える」


「先生らしい」


シャーロットが苦笑する。



大通りを歩いていると、小さな声が聞こえた。


「お宿どうですか!」


四人が振り向く。


まだ十歳にも満たない少女だった。


買い物籠を抱え、一生懸命声を張っている。


「お部屋空いてます!」


「ご飯も美味しいです!」


「お願いします!」


必死さだけが伝わってくる。


ビルは思わず笑った。


「こんな小さい子が客引きしてるのか」


少女は胸を張る。


「うちはお母さんと二人だから!」


「頑張らないといけないの!」


ヤスヒコは静かに尋ねた。


「案内してくれるか」


少女の顔がぱっと明るくなる。


「うん!」



案内された宿は、大通りから少し外れた場所にあった。


決して大きくはない。


建物も古い。


看板も少し色褪せている。


豪華とは程遠い。


だが庭先は綺麗に掃き清められ、入口にも花が飾られていた。


少女が元気よく扉を開ける。


「お母さーん!」


「お客さん!」


奥から一人の女性が姿を見せる。


「いらっしゃいませ」


「娘がお世話になりました」


柔らかな笑顔だった。


宿の中も華美ではない。


木造の床。


年季の入った机。


壁には修繕の跡もある。


それでも隅々まで掃除が行き届いていた。


ビルは小さくヤスヒコへ耳打ちする。


「先生」


「せっかく王都まで来たんですし、もっと立派な宿も見てみませんか?」


ヤスヒコは周囲を見渡し、一言だけ告げた。


「いや、ここにする」


「えっ?」


「一ヶ月世話になる」


女将は驚いて目を丸くする。


「ほ、本当ですか?」


「ああ」


「ありがとうございます!」


「やったぁ!」


少女も飛び跳ねるように喜んだ。



夕食。


食卓へ並んだのは豪華な料理ではない。


温かなスープ。


焼き魚。


パン。


野菜の煮込み。


どれも素朴だった。


だが、どこか懐かしい味だった。


食後、ビルは改めて尋ねる。


「先生」


「どうしてこの宿に決めたんです?」


ヤスヒコは湯飲みを置く。


「宿は眠れれば十分だ」


カミリーは少し笑って続けた。


「それだけですか?」


「一ヶ月世話になる」


「世話になる相手は、建物じゃない」


「人だ」


三人は静かに頷いた。



しばらく沈黙が流れた後、ヤスヒコが口を開く。


「明日から依頼を受けてこい」


ビルは当然のように聞き返す。


「先生も一緒ですよね?」


「いや、俺は同行しない」


三人が同時に顔を上げる。


「え?」


「ここは王都だ」


「格上の冒険者が大勢いる」


「だからこそいい経験になる」


ヤスヒコは静かに続けた。


「考えるのは俺じゃない」


「お前たちだ」


カミリーは真剣な表情になる。


「つまり、自分たちだけで依頼をこなせ、と」


「ああ、困った時だけ来い」


短い言葉だった。


だが三人には十分伝わった。


ビルは拳を握る。


「分かりました、やってみます」


シャーロットは笑う。


「絶対、先生を驚かせるんだから」


カミリーは静かに頷いた。


「まずは情報収集から始めよう」


ヤスヒコはそれ以上何も言わなかった。


もう教える段階ではない。


歩くのは、自分たちの足だった。



夜。


王城最上階に黒い鳥が飛んでくる。


一人の女性が窓辺に立ち、王都の灯を静かに見下ろしていた。


その視線は街へ向けられている。


やがて、小さく呟く。


「……来たわね」


その声は、夜風に溶けるほど静かだった。


しばらく街を見つめた後、女性は目を閉じる。


「ふふ……」


月明かりが横顔を照らす。


その刹那、紅い瞳が静かに輝いた。

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