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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第二章 武術師範、未来を育てる
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EX4 静かに動く歯車

夜。


灯りを落とした静かな一室。


窓の外には、月だけが淡く夜空を照らしていた。


部屋の中央。


一人の男が机へ向かい、積み重ねられた報告書を静かに読み進めている。


その表情は影に隠れ、窺うことはできない。


一枚の報告書へ目が止まる。


◇◇◇


メタリア王国内


魔族らしき存在を目撃したとの噂あり


真偽は未確認


現在も調査継続中


◇◇◇


男は無言のまま紙を机へ戻した。


やがて低く呟く。


「……人間の国で、か」


部屋の隅で控えていた部下が一歩前へ出る。


「各地で同様の噂が確認されています」


「ですが、証拠となるものは何一つありません」


男は静かに目を閉じた。


焦る様子もない。


怒る様子もない。


ただ事実だけを整理するように口を開く。


「噂だけで動けば、こちらの存在も知られる」


短い沈黙。


「監視を続けろ」


「接触はするな」


部下は深く頭を下げた。


「承知いたしました」


男は静かに顔を上げた。


遥か彼方。


夜の向こうに広がる人間たちの世界を見つめるように。


「……まだ、その時ではない」


その一言だけが静かに響いた。


部下は何も尋ねない。


その言葉の意味を理解しているからだ。


一礼すると、音もなく部屋を後にした。


静寂が戻る。


男は机の上へ視線を落とした。


そこには各地から集められた数多くの報告書。


人間たちの動向。


各国の情勢。


日々変化していく世界の記録。


男は一枚ずつ静かに目を通していく。


「……人間も、動き始めたか」


誰へ向けるでもない独り言。


報告書を閉じる音だけが部屋へ響いた。


古くから、人と魔族は争い続けてきた。


それは誰もが知る歴史。


だからこそ、人間の国で魔族を見たという噂は、小さなものであっても決して見過ごせるものではなかった。


夜は静かに更けていく。


男は窓の外へ視線を向ける。


月明かりが、その紅い瞳を静かに照らした。


世界のどこかで、一つの歯車が静かに回り始めている。

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