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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第二章 武術師範、未来を育てる
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武術師範と九級への道

ーー試験日の朝。


エンターサンド冒険者ギルド。


普段より少しだけ緊張した空気が漂っていた。


試験場には数人の冒険者が集まり、順番を待っている。


ビルは木剣を握りしめながら深く息を吐いた。


「……緊張する」


シャーロットが苦笑する。


「今さら?」


「先生と毎日やってたじゃん」


「先生と試験官じゃ全然違うんだよ!」


ビルが頭を抱える。


カミリーは槍を肩に担ぎ、静かに周囲を見回した。


「落ち着け」


「勝ち負けじゃない」


「自分たちが積み重ねてきたものを見せればいい」


その言葉にビルは何度か深呼吸した。


「……そうだな」


少しだけ肩の力が抜ける。


少し離れた場所では、ヤスヒコが静かに立っていた。


いつも通り何も言わない。


三人も、もう励ましの言葉は求めなかった。


先生がそこにいてくれる。


それだけで十分だった。



受付ではエミリアが試験の説明を行っていた。


「九級昇級試験は実戦形式です」


「試験官と立ち合い、武器の扱い、判断力、姿勢を総合的に確認します」


「勝敗は問いません」


「冒険者として十分な技量があると判断されれば合格です」


三人は静かに頷いた。



最初はビルだった。


木剣を構える。


向かい合う試験官は30代の先輩冒険者だった。


「始め!」


合図と同時に試験官が踏み込む。


以前のビルなら真正面から力任せに打ち合っていただろう。


だが今は違う。


一歩。


重心を崩さず踏み込む。


木剣を受け止め、


すぐに体勢を立て直す。


試験官の剣筋を見て、


無理に振り回さない。


丁寧に。


着実に。


教えられた通りの立ち方で動く。


数合打ち合ったあと、


試験官が距離を取った。


「そこまで」


ビルは大きく息を吐く。


試験官は静かに頷いた。


「基礎がよくできている」


「焦らず戦えるようになったな」


ビルは思わず笑顔になる。



続いてカミリー。


槍を構える。


試験官はビルの時とは違う、剣士の冒険者だった。


「始め!」


踏み込んでくる。


しかしカミリーは下がらない。


一定の距離を保つ。


槍先だけが正確に動く。


近付かせない。


無理に攻めない。


「……ほう」


試験官は何度か踏み込むが、


槍の間合いを崩せない。


やがて合図が鳴る。


「そこまで」


試験官は苦笑した。


「間合いを理解している」


「槍をちゃんと槍として使えている」


カミリーは静かに一礼した。



最後はシャーロット。


盾を持った試験官と距離をしっかり取る。


魔法を放つ。


しかし連発はしない。


相手の動きを見ながら、


一発ずつ丁寧に撃つ。


試験官が近付けば距離を取り、


障害物を利用して位置を変える。


無駄に前へ出ない。


試験官は最後に笑った。


「後衛としての立ち回りが分かっている」


「良い判断だった」


シャーロットは胸を撫で下ろした。


「よかったぁ……」



全員の試験が終わる。


三人は並んで結果を待つ。


長く感じる時間だった。


やがてエミリアが試験官たちと共に現れる。


一枚の書類を手にしていた。


「ビルさん」


「はい!」


「カミリーさん」


「はい」


「シャーロットさん」


「はい!」


エミリアは微笑む。


「九級昇級試験――」


「三名とも合格です」


一瞬。


三人とも言葉が出なかった。


「……え?」


ビルが目を瞬かせる。


「本当に?」


「はい」


「おめでとうございます」


次の瞬間。


「やったぁぁぁ!」


ビルが飛び跳ねた。


シャーロットも思わず手を叩く。


「合格した!」


カミリーも珍しく表情を崩した。


「本当に……受かったんだ…」


ギルドの中から拍手が起こる。


「あいつら頑張ってたもんな」


「当然だ」


そんな声も聞こえてきた。



ビルは真っ先にヤスヒコのもとへ走る。


「先生!」


「受かりました!」


ヤスヒコは三人を見る。


そして静かに頷いた。


「……よくやったな」


その一言だけだった。


だが、三人にとっては何より嬉しい言葉だった。


「「ありがとうございます!」」


三人は深く頭を下げる。


ヤスヒコは静かに言う。


「九級になっても変わらん」


「昨日の自分より、一歩だけ前へ進め」


三人は真っ直ぐ返事をした。


「「はい!」」


エミリアは書類を片付けながら、ふと思い出したように口を開いた。


「あ、そうでした」


「ヤスヒコさんにもお伝えしなければ」


ヤスヒコは静かに振り向く。


「?」


「先日の審査が正式に承認されました」


「本日付で、ヤスヒコさんは六級冒険者へ昇級となります」


一瞬、ギルドが静まり返る。


「……え?」


今度はビルたちの方が固まった。


「先生も!?」


「六級!?」


シャーロットが目を丸くする。


「いつの間に!」


カミリーも思わず笑ってしまう。


「俺たちの試験どころじゃないですよ、それ」


エミリアは苦笑した。


「薬草採取だけではありません」


「護衛依頼や討伐依頼も含め、これまでの功績が認められた結果です」


「達成率、信頼度ともに申し分ありませんでした」


ビルは嬉しそうに笑う。


「先生!」


「おめでとうございます!」


シャーロットも勢いよく頭を下げる。


「先生、おめでとう!」


カミリーも穏やかに微笑んだ。


「先生らしいですね」


三人の祝福を受けても、ヤスヒコの表情はほとんど変わらない。


「そうか」


ただ、それだけだった。


エミリアは苦笑する。


「もう少し嬉しそうにしてください」


ヤスヒコは少し考え、静かに答えた。


「級は仕事を任されるための目安だ」


「やることは変わらん」


その一言に、ギルド中から思わず笑いが漏れた。


「先生らしいや!」


ビルが笑う。


ヤスヒコは三人へ視線を向ける。


「お前たちも同じだ」


「九級になったから強くなったわけではない」


「昨日まで積み重ねたものが認められただけだ」


「それを忘れるな」


三人は真っ直ぐ、そして力強く頷いた。


「「はい!」」



その日の夕方。


ギルドを出る三人の首には、新しい九級の冒険者証が掛かっていた。


ビルはそれを何度も見つめる。


「俺たち、本当に九級なんだな」


シャーロットが笑う。


「でも、まだまだ先は長いよ」


カミリーも頷く。


「先生に追いつくには、全然足りないな」


少し前を歩くヤスヒコは、いつもと変わらない足取りだった。


その背中は、まだ遠い。


だが三人には分かっていた。


焦る必要はない。


積み重ねた努力は、自分たちを裏切らない。


そう教えてくれた人が、目の前を歩いているのだから。


未熟だった三人は、十級冒険者から九級冒険者へと歩みを進めた。


それは決して才能ではなく、一日一日の積み重ねが形となった、最初の証だった。

第二章はここまでです。

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