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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第二章 武術師範、未来を育てる
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武術師範と積み重ねの証

朝。


町外れの空き小屋。


いつものように掃除から一日が始まる。


ビルは床を掃き、


カミリーは道具を整え、


シャーロットは窓を磨く。


誰に言われるでもない。


もう三人にとって、それは当たり前の日課だった。


掃除を終えると、ヤスヒコが部屋を見渡す。


「……よし」


言葉はそれだけ。


三人は嬉しそうに顔を見合わせる。


それだけで十分だった。



その日の稽古は実戦形式だった。


ヤスヒコは森の中で一本の枝を地面へ投げる。


「角兎がいると思え」


三人は自然に動く。


ビルが前へ。


カミリーが側面へ回り込み、


シャーロットが後方から援護位置を取る。


互いに声を掛けなくても位置が重ならない。


ヤスヒコは黙って見守る。


稽古を終えると、小さく頷いた。


「……上手く動けていた」


ビルは思わず拳を握る。


「よし!」


シャーロットが笑う。


「また褒められて喜んでる」


カミリーも笑った。


「前は先生に言われてから動いていましたけど、今は自然に動けるようになってきました」


ヤスヒコは何も答えず歩き始めた。



それから数日。


三人は依頼を積み重ねた。


薬草採取。


荷物運搬。


迷子の捜索。


派手な依頼ではない。


だが一つひとつを丁寧にこなしていく。


ギルドでは、


「あの三人なら安心だ」


そんな声が少しずつ聞こえるようになっていた。



ある日の討伐依頼。


森へ入ると角兎が現れる。


ヤスヒコは後ろで腕を組んだまま動かない。


ビルも振り返らなかった。


もう先生を見る必要はない。


「行くぞ!」


自然に三人が散る。


ビルが正面を受け、


カミリーが逃げ道を封じ、


シャーロットが援護する。


危なげなく三匹を討伐した。


討伐後。


三人は角兎へ静かに手を合わせる。


それも、もう誰かに言われなくてもできるようになっていた。


ヤスヒコは近付き、小さく頷く。


「……十分だ」


その一言だけ。


三人は顔を見合わせて笑った。



ギルドへ戻る。


依頼達成の報告を終えると、エミリアが書類を整理しながら微笑んだ。


「皆さん最近、本当に安定していますね」


ビルは照れくさそうに笑う。


「先生のおかげです」


ヤスヒコは何も言わない。


エミリアは少し真面目な表情になった。


「実は、お話があります」


三人は顔を見合わせた。


「皆さんは十級依頼を十分な回数こなし、依頼達成率も安定しています」


「ギルド内での評価も、とても良いです」


ビルが目を丸くする。


「それって……」


エミリアは微笑んだ。


「九級昇級試験を受験する資格を満たしました」


一瞬、空気が止まる。


「え……」


シャーロットが思わず声を漏らす。


カミリーも驚いたように目を見開いた。


「もう、そこまで来たんですね……」


ビルは何度もエミリアと仲間の顔を見比べる。


「俺たち……受けられるんですか?」


「はい」


「もちろん、強制ではありません」


「ですが私は、十分挑戦できる実力があると思っています」


ビルはゆっくりヤスヒコを見る。


「先生……」


ヤスヒコは静かに答えた。


「あとは、お前たちが決めろ」


三人は互いに顔を見合わせる。


そして同時に頷いた。


「「受けます!」」


その返事を聞いたエミリアは嬉しそうに笑った。


「分かりました」


「試験日は三日後です」



ギルドからの帰り道。


ビルがぽつりと呟いた。


「先生」


「俺達……最初は角兎一匹にも苦戦してました」


シャーロットが笑う。


「突っ込んでばっかりだったもんね」


「うるさい」


皆が笑う。


カミリーが静かに言った。


「でも今なら、あの頃の自分には負けません」


ヤスヒコは三人を見渡す。


そして静かに口を開く。


「結果を急ぐな」


「いつも通りやれ」


「積み重ねたものは、簡単には消えん」


その言葉に三人は力強く頷いた。


「「はい!」」


空が茜色に染まる夕暮れ。


三人の表情に、不安はあった。


それでも、それ以上に前を向く覚悟があった。


三日後に待つ九級昇級試験は、強さを競う戦いではない。


これまで積み重ねてきた努力を、自分たち自身が証明する日となるのだった。

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