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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第二章 武術師範、未来を育てる
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武術師範と守るための一歩

朝。


町外れの空き小屋。


箒の音だけが静かに響いていた。


ビルは床を掃き、


カミリーは棚を整え、


シャーロットは窓を拭く。


誰にも言われない。


もう掃除は彼らの日課になっていた。


ヤスヒコは小屋の入口に立ち、その様子を静かに見守っている。


やがて掃除が終わる。


ビルが箒を壁へ立て掛けた。


「先生!」


「終わりました!」


ヤスヒコは部屋を一通り見回し、小さく頷く。


「……よし」


「綺麗になったな」


三人は顔を見合わせて笑う。


シャーロットが窓から外を見る。


「先生」


「今日は何を教えてくれるの?」


ヤスヒコは少し考えたあと、小屋の外へ歩き出した。


「今日は教えん」


「え?」


「今日は、お前たちだけで戦え」


ビルが目を丸くする。


「先生は?」


「あくまで同行だ」


「俺は何も言わん」


三人は少し緊張した表情になる。


カミリーが静かに槍を握った。


「つまり……俺たちだけで判断するんですね」


「ああ」


ヤスヒコは短く答える。


「今まで積み重ねたものを試せ」


三人は力強く頷いた。


「はい!」



冒険者ギルド。


エミリアが依頼書を差し出す。


「皆さん、おはようございます」


「今日も角兎三匹の討伐です」


「よろしくお願いしますね」


ビルが依頼書を受け取り、三人は森へ向かった。


ヤスヒコは少し後ろを歩く。


何も言わない。


何も教えない。


ただ見守っていた。



森の中。


角兎を見つける。


「右に一匹」


カミリーが小さく呟く。


「左は私」


シャーロットが位置を変える。


「俺が前に出る!」


ビルが飛び込む。


三人の動きは以前よりずっと自然だった。


ビルが前衛となり、


カミリーが槍で間合いを支配し、


シャーロットが後方から援護する。


危なげなく三匹を討伐した。


ヤスヒコは最後まで動かなかった。


討伐を終えると静かに近付く。


角兎へ手を合わせる。


三人も自然と続いた。


もう誰も言われなくても命へ礼を尽くしていた。


ヤスヒコは小さく頷く。


「……よくなっているな」


ビルの表情が一気に明るくなる。


「よっしゃ!」


シャーロットが笑う。


「また喜んでる」


「本当に分かりやすいんだから」


カミリーも静かに笑った。


「はは、でも確かに前よりも連携がうまくいってるよ」



討伐を終えた帰り道。


夕暮れの森を歩いていると、


突然、悲鳴が響いた。


「きゃああっ!」


「お母さん!」


三人は同時に振り向く。


ビルがヤスヒコを見る。


ヤスヒコは短く言った。


「行け」


その一言で三人は駆け出した。


ヤスヒコは後ろから歩いて付いていく。



悲鳴の先には、一組の母子がいた。


荷物を散らばらせ、幼い子どもを庇う母親。


その前には二匹の角兎。


角を向け、今にも飛び掛かろうとしていた。


「大丈夫です!」


ビルが飛び込む。


だが焦った。


カミリーも同時に前へ出る。


「しまっ——」


槍が振れない。


シャーロットも魔法を放とうとするが、


「二人が射線にいる!」


一瞬。


三人の連携が止まる。


角兎が母親へ飛び掛かった。


「危ない!」


ビルが無理やり身体を滑り込ませ、木剣で角を受け止める。


衝撃でよろめく。


「ビル!」


カミリーがすぐ横へ回り込む。


「左は任せろ!」


槍が鋭く突き出される。


角兎が距離を取った。


その瞬間、


シャーロットが射線を確保する。


「そこ!」


火球が飛び、


もう一匹の足元へ炸裂した。


怯んだ隙を逃さない。


「今だ!」


三人の呼吸が噛み合う。


ビルが押さえ、


カミリーが仕留め、


シャーロットが援護する。


静寂が戻った。



母親は震えながら頭を下げた。


「ありがとうございました……!」


幼い子どもも涙を流しながら頭を下げる。


「お兄ちゃんたち、ありがとう!」


ビルたちは照れくさそうに笑う。


「もう大丈夫ですよ」


母子は何度も礼を言いながら町へ戻っていった。



姿が見えなくなると、


三人はその場へ座り込んだ。


ビルが俯く。


「……駄目だった」


「最初、全然連携できなかった」


シャーロットも唇を噛む。


「焦っちゃった」


カミリーも拳を握る。


「俺たち、まだまだだ……」


ヤスヒコが静かに歩いてくる。


「今日はどう感じた」


ビルが答える。


「たまたま助けることはできました」


「でも先生なら、もっと早く助けられました」


カミリーも続ける。


「助けられたことよりも、助けられなかったかもしれないと思った方が大きいです」


シャーロットは悔しそうに呟く。


「……勝ったのに、全然勝った気がしない」


ヤスヒコはしばらく黙っていた。


やがて静かに言う。


「そう思えたなら十分だ」


三人が顔を上げる。


「慢心した者は強くならん」


「今日のお前たちは失敗した」


「だが」


少しだけ間を置く。


「人を守った」


「その事実は変わらない」


三人は息を呑む。


ヤスヒコは小さく頷いた。


「……いい動きだったな」


三人は胸が熱くなる何かを感じていた。


ヤスヒコは静かに続ける。


「忘れるな」


「一人で勝とうとするな」


「仲間を信じろ」


三人は真っ直ぐ頷いた。


「「はい!」」



帰り道。


夕焼けが森を赤く染めていた。


ビルがぽつりと呟く。


「先生」


「今日は初めて、誰かを守れました」


ヤスヒコは空を見上げる。


「ああ」


「だが、人を守ることに終わりはない」


「今日救えた命がある」


「明日も救えるとは限らん」


「だから積み重ねるんだ」


「昨日の自分より、一歩だけ前へ進め」


カミリーが静かに呟く。


「昨日の自分に負けないために、ですか」


ヤスヒコは小さく頷く。


「ああ」


夕日に照らされながら四人は町への道を歩いていく。


この日初めて、自分たちの力で誰かを守ることができた。


そして同時に、自分たちの未熟さも知った。


その小さな成功体験は、三人の胸に「守るために強くなる」という新たな決意を静かに芽生えさせるのだった。

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