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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第二章 武術師範、未来を育てる
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武術師範とそれぞれの役目

何度目かの角兎を討伐し終えた帰り道。


夕暮れの森を四人がゆっくり歩いていた。


肩には討伐した角兎。


依頼にも少しずつ慣れ始め、三人の足取りは以前より軽い。


ビルが嬉しそうに振り返る。


「先生!」


「今日は三匹とも、ちゃんと連携できました!」


ヤスヒコは静かに頷く。


「……いい動きだったな」


たった一言。


それだけでビルの顔がぱっと明るくなる。


「よしっ!」


思わず拳を握る。


シャーロットが吹き出した。


「また先生に褒められて喜んでる」


「ビルって本当に分かりやすいよね」


「う、うるさい!」


耳まで真っ赤になる。


カミリーも静かに笑った。


「でも……俺も嬉しいよ」


ヤスヒコは何も言わず歩き続ける。


その横顔は相変わらず無表情だったが、どこか穏やかだった。



やがて町外れの空き小屋が見えてくる。


ビルが自然に言う。


「先生」


「少し掃除してから帰りませんか」


ヤスヒコは足を止める。


三人を見回し、小さく頷いた。


「……ああ、そうだな」


小屋へ入ると、三人は誰にも言われず動き始めた。


ビルは床を掃き、


カミリーは棚や道具を整え、


シャーロットは窓を開けて雑巾をかける。


最初の頃のように文句を言う者はいない。


箒の音だけが静かに響く。


ヤスヒコは黙ってその様子を眺めていた。


掃除が終わる。


「先生!」


「終わりました!」


ヤスヒコは部屋をゆっくり見回す。


床。


棚。


窓。


隅々まで確認すると、小さく頷いた。


「……よし」


「綺麗になった」


その一言だけ。


三人は顔を見合わせて笑う。


「やった!」


シャーロットが笑い、


カミリーも満足そうに息を吐く。


ヤスヒコは穏やかに笑っていた。



翌日。


いつもの掃除後、四人は小屋の前へ出た。


ヤスヒコは三人を順番に見渡す。


「今日は同じことは教えん」


ビルが首を傾げる。


「え?」


「お前たちは武器が違う」


「ならば戦い方も違う」



最初に呼ばれたのはビルだった。


「構えろ」


ビルは木剣を構える。


「踏み込め」


ビルが前へ出る。


「違う」


ヤスヒコは肩を軽く押した。


「重心が前へ流れている」


「打った後も立て」


何度も踏み込む。


何度も姿勢を直される。


少しずつ軸がぶれなくなっていく。


ヤスヒコは頷いた。


「そのままだ」


「前へ出るのがお前の役目だ」


ビルは力強く返事をした。


「はい!」



次にカミリーだった。


槍を構える。


ヤスヒコは一歩近付いた。


「近い」


「え?」


「相手にだ」


「槍は長い」


「その長さがお前の強さだ」


一本の枝を地面へ立てる。


「ここから突け」


カミリーは少し下がり、突きを放つ。


枝の先端だけを正確に捉える。


ヤスヒコは頷いた。


「そうだ」


「近付くな」


「届く距離を知れ」


カミリーは静かに頭を下げた。


「分かりました」



最後はシャーロットだった。


「魔法を撃ってみろ」


炎の弾が飛ぶ。


ヤスヒコは避ける。


「威力は十分だ」


「でも?」


「前へ出過ぎだ」


シャーロットは首を傾げた。


「近い方が当てやすいし」


ヤスヒコは首を振る。


「魔法使いは狙われる」


ビルとカミリーを前へ立たせる。


その後ろへシャーロットを立たせた。


「ここがお前の位置だ」


「守られる場所?」


「ああ」


「仲間を見失うな」


「味方の後ろから戦え」


シャーロットは小さく笑った。


「なるほどね」



三人を横一列に並ばせる。


ヤスヒコは静かに言った。


「三人とも同じ戦い方をする必要はない」


「自分にできることをやれ」


「足りないところは仲間が埋める」


「それが連携だ」


三人は真剣な表情で頷いた。



「やってみろ」


ヤスヒコが小枝を三本拾う。


一本目を右へ投げた。


「右!」


ビルが真っ先に飛び出す。


二本目。


左へ。


「左!」


カミリーの槍が正確に枝を突き落とす。


三本目。


真後ろへ。


「後ろ!」


シャーロットが素早く振り返り、小さな火球で枝を撃ち抜いた。


しかし。


三人はお互いの動きが重なり、ぶつかりそうになる。


「わっ!」


「ごめん!」


「危ない!」


ヤスヒコは静かに見ていた。


「もう一度」


何度も繰り返す。


少しずつ。


少しずつ。


互いの位置を理解し始める。


ビルは前を任せられる。


カミリーは距離を保てる。


シャーロットは二人を見ながら魔法を放てる。


夕日が傾く頃。


三人の動きは、最初よりずっと自然になっていた。


ヤスヒコは小さく頷く。


「……悪くない」


その一言だった。


「よっしゃ!」


ビルが飛び上がる。


「先生に褒められた!」


シャーロットが笑いながら言う。


「ビル、本当にわっかりやすーい」


カミリーも穏やかに笑った。


「でも、本当に嬉しい」


ヤスヒコは照れることもなく言う。


「忘れるな」


「一人で勝とうとするな」


「仲間を信じろ」


三人は真っ直ぐ返事をした。


「「はい!」」



帰り道。


夕焼けに染まる草原を歩く。


カミリーがぽつりと呟く。


「先生」


「今日、分かりました」


ヤスヒコが横を見る。


「強い人になるんじゃなくて」


「仲間と強くなるんですね」


ヤスヒコは静かに頷いた。


「ああ」


「一人では必ず限界が来る」


「だから人は支え合うんだ」


その言葉を胸に刻みながら、三人は町へ帰っていく。


今はまだ未熟な冒険者。


だが、それぞれが自分の役割を知り、仲間を信じ始めたこの日が――


やがて幾度もの死線を共に越えていく、彼らの連携の原点となるのだった。

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