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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第二章 武術師範、未来を育てる
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武術師範と命を敬う心

三人がヤスヒコの下で修行を受け始めて数日。


エンターサンド冒険者ギルドでは、今日も模擬戦が行われていた。


木剣がぶつかる乾いた音が響く中、ビルが最後の一撃を決める。


「……勝った!」


息を切らしながら木剣を下ろす。


数日前まで三連敗だった相手に、初めて勝つことができた。


「やったじゃないか」


カミリーが笑う。


シャーロットも腕を組みながら頷いた。


「突っ込むだけじゃなくなったね」


「うるさいな」


照れくさそうに頭をかくビル。


その様子を受付から見ていたエミリアが、小さく微笑む。


「皆さん、以前とは立ち方が見違えています」


「ヤスヒコさんのご指導の成果ですね」


そこへ、依頼書を手にしたエミリアが歩み寄った。


「実は皆さんにちょうど良い依頼があります」


三人は身を乗り出す。


「討伐依頼ですか?」


「はい」


エミリアは頷く。


「ただし、十級冒険者だけでは討伐依頼は受けられません」


少し残念そうな表情になるビル。


しかしエミリアは続けた。


「九級以上の冒険者が同行する場合は例外です」


そう言って自身の後ろにいるヤスヒコを見る。


「ヤスヒコさんが同行してくださるのであれば、受理できます」


ビルは顔を輝かせた。


「本当ですか!」


ヤスヒコは静かに頷く。


「ああ」


「今日は実戦だ」



町の外れの森。


依頼内容は、角兎三匹の討伐。


小型犬ほどの大きさをした草食の魔物で、額には一本の角が生えている。


臆病な性格だが、群れで行動し、追い詰められると角で反撃してくる。


新人冒険者の実戦訓練としてよく受ける依頼だった。


森へ入ると、ヤスヒコが歩みを止める。


「ビル」


「はい」


「何が見える」


突然の問いだった。


ビルは辺りを見回す。


「木……です」


「他は」


「えっと……」


言葉が続かない。


ヤスヒコは何も言わず、カミリーへ視線を向ける。


「獣道があります」


シャーロットは耳を澄ませる。


「鳥の鳴き声が止まった」


ヤスヒコは静かに頷いた。


「そうだ」


そのまま森を進む。


やがて前方の草むらが揺れた。


角兎だ。


「いた!」


ビルが勢いよく駆け出す。


角兎は驚いて逃げる。


「待て!」


夢中で追いかける。


その瞬間だった。


横の茂みが大きく揺れる。


もう一匹。


角兎が鋭い角を突き出しながら飛び出した。


「っ!」


ビルは慌てて身体をひねる。


角が服をかすめる。


あと一歩遅ければ、脇腹を貫かれていた。


「ビル!」


カミリーの声が飛ぶ。


ビルは大きく距離を取り、息を整えた。


ヤスヒコは助けなかった。


ただ静かに、その様子を見ていた。


戦闘が落ち着くと、ヤスヒコが口を開く。


「敵だけを見るな」


ビルは悔しそうに俯く。


「……はい」


「周囲を見ろ」


「草の揺れ」


「鳥」


「風」


「音」


「匂い」


「森は多くを教えてくれる」


三人は静かに耳を傾ける。


「敵は隠れていても、自然は隠せない」


その言葉を胸に刻み、再び森を進んだ。


しばらくすると、再び角兎の群れを見つける。


今度はビルは飛び出さない。


深く息を吸う。


鳥。


風。


草。


仲間の位置。


一つひとつ確認する。


「……右だ」


小さく呟く。


カミリーがすぐに回り込む。


シャーロットが逃げ道を塞ぐ。


「今だ!」


三人の連携で、角兎は討伐された。


ヤスヒコは最後まで一歩も動かなかった。


討伐後。


ヤスヒコは静かに角兎へ歩み寄る。


しゃがみ込み、その亡骸へ手を合わせた。


三人は不思議そうに見つめる。


ヤスヒコは立ち上がり、静かに言った。


「……相手が弱いからと侮るな」


「命を懸けているのは、相手も同じだ」


「生きようとしている者を軽んじる者は、本当の強さを身につけることはできん」


ビルたちは顔を見合わせる。


そして三人とも、角兎へ静かに頭を下げた。


帰り道。


森を抜ける風が心地よく吹いていた。


カミリーがぽつりと呟く。


「昨日までは立ち方、今日からは見ること」


「本当に順番に教えるんですね」


ヤスヒコは静かに答えた。


「土台を飛ばせば崩れる」


「だから積み重ねるんだ」


少し歩いた後、ビルが照れくさそうに頭をかく。


「なんかさ……」


シャーロットが首を傾げる。


「どうしたの?」


「もう”ヤスヒコさん”って感じじゃないんだよな」


カミリーも静かに頷く。


「うん、俺もそう思ってた」


ビルは立ち止まり、姿勢を正す。


ヤスヒコを真っ直ぐ見つめ、深く頭を下げた。


「先生」


「明日も、ご指導よろしくお願いします」


シャーロットも笑う。


「私も先生って呼ぶ」


カミリーも頭を下げた。


「先生、よろしくお願いします」


その一言に、ヤスヒコはほんの一瞬だけ目を見開いた。


道場。


朝日に照らされた畳張りの床。


汗を流しながら稽古に励む弟子たち。


「先生!」


「もう一本お願いします!」


「ありがとうございました!」


懐かしい声が、耳の奥によみがえる。


しかし、その景色は一瞬で静かに消えた。


ヤスヒコは目の前の三人を見る。


あの頃とは違う。


だが、その眼差しは同じだった。


口元がほんのわずかに緩む。


「……ああ」


「明日もやろう」


その短い返事に、三人は嬉しそうに笑った。


夕日に照らされながら四人は町への道を歩いていく。


その背中は、冒険者と同行者ではない。


一人の師と、それに続く三人の弟子だった。

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