武術師範とお礼の一日
昇級試験の二日後。
ヤスヒコは森での依頼を終え、エンターサンドへの街道を歩いていた。
背には依頼品を収めた籠。
今日の依頼は薬草採取と森道の見回り。
昇級しても、自分のやることは今までと変わらない。
助けを求める声があれば、それに応えるだけだ。
一つひとつを丁寧に終え、帰路につく。
やがて街門をくぐり、冒険者ギルドが見えてきた。
その前で、三人の若い冒険者が待っていた。
「ヤスヒコさん!」
真っ先に手を振ったのはビルだった。
その後ろにはカミリーとシャーロットが並んでいる。
ヤスヒコは足を止めた。
「どうした」
ビルは少し緊張したように頭をかく。
「えっと……今日は、その……」
言葉が続かない。
隣で見ていたカミリーが苦笑した。
「俺たち、ちゃんと礼がしたくて」
「この前助けてもらったお礼です」
ヤスヒコは静かに首を横へ振る。
「礼は、もう受けている」
「え?」
ビルが首を傾げる。
「三人とも無事だった」
その一言で、カミリーは言葉を失った。
やはり、この人らしい。
そう思った。
だが、何もしないまま終わらせるつもりはなかった。
その時だった。
シャーロットが一歩前へ出る。
「もういいじゃん」
「ヤスヒコ、ご飯食べに行こう」
「それで終わり!」
「お、おい!」
ビルが慌てる。
「呼び捨ては失礼だろ!」
シャーロットはきょとんとした顔で答えた。
「本人、何も言ってないじゃん」
「そういう問題じゃないって!」
二人の視線がヤスヒコへ向く。
ヤスヒコは少しだけ考え、静かに答えた。
「呼びやすいように呼べばいい」
「ほら」
シャーロットは少し得意そうに笑う。
ビルは頭をかきながら苦笑した。
「ヤスヒコさんがそう言うなら……」
カミリーも小さく笑う。
「じゃあ、行きましょう」
ヤスヒコは一つ頷いた。
「ああ」
四人は街の食堂へ向かった。
⸻
昼時の食堂は多くの客で賑わっていた。
空いている席へ腰を下ろす。
店員が注文を取りに来る。
「私はおすすめ定食!」
シャーロットが勢いよく手を挙げた。
ビルが呆れたように笑う。
「お前、それ一番高いやつじゃないか」
「今日はお礼なんだからいいでしょ」
「だからって遠慮しろよ!」
「じゃあビルも食べれば?」
「いや、そういう話じゃなくて……」
二人のやり取りを見て、カミリーが苦笑する。
「俺が多めに出すから、ほどほどにな」
「やった!」
仲睦まじいやり取りに、ヤスヒコは静かに目を細めた。
料理を待つ間、ヤスヒコが尋ねる。
「三人は付き合いが長いようだな」
ビルは嬉しそうに頷く。
「同じ村なんです」
「子どもの頃から、ずっと一緒でした」
カミリーも続ける。
「俺とシャーロットは兄妹です」
ヤスヒコは二人を見比べた。
「そうだったか」
シャーロットは肩をすくめる。
「似てないでしょ? よく言われるわ」
カミリーは照れくさそうに笑った。
ビルも笑いながら話す。
「小さい頃は毎日一緒に遊んでたんです」
「悪さしては村の人に怒られて」
カミリーが懐かしそうに笑う。
「誰が一番怒られていたか、覚えてるか?」
シャーロットが間髪入れずに答える。
「ビル」
「なんでだよ!」
「だって大体ビルが言い出しっぺだったじゃん」
「違うって!」
「いや、合ってる」
カミリーが真顔で頷く。
「カミリーまで!」
三人は顔を見合わせ、大きく笑った。
その様子を見ながら、ヤスヒコは静かに呟く。
「良い縁だ」
その短い言葉に、三人は少し照れくさそうな顔をした。
やがて料理が運ばれてくる。
ヤスヒコは静かに手を合わせた。
「いただきます」
三人は不思議そうに見つめる。
ビルが尋ねた。
「それ、どういう意味なんですか?」
「食材と、作ってくれた者への礼だ」
「へぇ……」
ビルも真似をして手を合わせる。
「いただきます」
カミリーも続く。
「いただきます」
シャーロットは少し照れながら手を合わせた。
「……いただきます」
四人は食事を始めた。
しばらくして、ビルが口を開く。
「ヤスヒコさん」
「あんなに強くなるには、やっぱり特別な修行があるんですか?」
ヤスヒコは静かに答える。
「急には強くならん」
「毎日積み重ねる」
「ただそれだけだ」
ビルは真剣な顔で頷く。
「やっぱり近道なんてないんですね」
カミリーも静かに頷いた。
「勉強になります」
シャーロットは口を尖らせる。
「なんかもっと、隠された秘伝とかないの?」
ヤスヒコは少しだけ笑った。
「ない」
その一言に、三人は思わず吹き出した。
穏やかな笑い声が食堂に響く。
⸻
食事を終え、店を出る。
日が少し傾き始めていた。
「あっ!」
ビルが思い出したように声を上げる。
「ヤスヒコさん、依頼報告まだですよね!」
「ああ」
「じゃあ一緒にギルドまで行きましょう!」
四人は並んで歩き出した。
やがて冒険者ギルドへ到着する。
扉を開く。
受付に立っていたエミリアが顔を上げた。
四人の姿を見ると、優しく微笑む。
「ヤスヒコさん、お帰りなさい」
ヤスヒコは静かに頷く。
そして依頼品の籠をそっとカウンターへ置いた。
エミリアはそんなヤスヒコを見つめ、どこか嬉しそうに微笑んだ。
ヤスヒコは依頼品を受け渡すと、静かに受付へ立った。
今日から第二章スタートやでぇ。。。




