長身スレンダー三人衆エミリー・スコットは米国生まれの金髪美人
もりもりの勤務先は、トーカイ株式会社知多製造所で配属先は調達部。
炊飯器関係の調達を担っている。
調達部は炊飯器に必要な部品を、商社を通して、調達している。
特に取引の大きい商社は、トーカイ物産株式会社。トーカイ株式会社の子会社であるが、商社としてある程度独立性を持たせるため、持ち株比率は51%である。
トーカイ物産株式会社は、調達の専門知識を商社に集約し、トーカイ株式会社が物作りに専念できるようにすること、海外サプライヤー・需要家との交渉を任せることで、グループ全体の効率化を図っている。
今日は、そのトーカイ物産の河口部長が、もりもりのところに一人の女性を連れてやってきた。
河口は全国レベルのバスケット選手だったこともあり、190cm近い長身である。
「ユウちゃん、今日は新人を連れてきたよ。」
河口はもりもりのことをユウちゃんと呼ぶ。
「ハジメマシテ。エミリー・スコットです。」
青い目をしたアメリカ人。長い金髪は軽くウエーブがかかっている。鼻筋がすっと通った美人。
部長の河口が背が高いこともあり、一緒に来るときはわからなかったが、もりもりと同じくらい背が高い。
後に、長身スレンダー三人衆に加えられる。
「森武ユウキです。」
「ヨロシクです。」
エミリーは
たまに怪しい日本語を話すが、致命的なミスはないらしい。
エミリーは、日本のアニメにすっかり魅了され、メイドインジャパンの炊飯器で炊いたライスに衝撃を受け、勤めていたアメリカの家電量販店を辞めて、3年前に日本に来た。
関係者との名刺交換を済ます。
河口部長が切り出す。
「ユウちゃん、こんど岩手の内鍋メーカーに行く予定と聞いていたが、一緒にエミリーを連れて行って欲しい。本来はエミリーや森武さんを私が連れていくべきだが、エミリーの勉強のために一人で行かせたい。あなたとなら安心だ。」
「もちろんいいですよ。河口部長の頼みであれば、是非そうさせてもらいますよ。」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
河口部長とエミリーは、立ち上がり頭を下げる。
「いえいえ、但し、エミリーさん。初めての私との出張は、日帰りになります。私のスケジュールの関係で。ハードですが、こちらこそ、よろしくお願いします。」
「I got it.」
出張は3日後に決まった。
出張当日、中部国際空港セントレアの国内線ロビーに集合した。
中部国際空港 → 花巻空港。朝7時発と早い。
8:20に花巻空港へ着き、レンタカーを借りて奥州市へ30分ほどで移動。
そのまま、工場見学。エミリーを紹介する。
内鍋を製造する過程で、エミリーが驚いたのは、鉄を溶かし、1500℃近い温度で鉄が溶けているシーンである。炉の前は熱気がすごく、エミリーが思わず後ずさりする。
職人は汗だくだ。
エミリーは、黙って見ている。
工場見学と、その後の対談。
会社のお土産とは別に、
「はい、これを。美味いですよ。歯ごたえが、いいですよ。」
弁才天の黄金砂利餅。きなこ味。
外にきな粉がまぶしてあり、餅が柔らかく、餡はピーナッツバターで食感は・・・。
「職人さんのもありますよ。」
「もりもりさん、あなたという人は。いつも、ありがとうございます。」
「今日は日帰りですが、ここには現場の原点がある。勉強になるので、また会社のものとエミリーを連れてきていいですか?」
「ええ、あなたは、我々のような職人を大事にしてくれる。もりもりさんの頼みとあらば、大歓迎だ。」
「ありがとうございます。また、お邪魔します!」
もりもりが花巻へ向かって運転する車中、エミリーが尋ねた。
「森武さん、あんなに暑い中、みんな我慢ですか?」
「そう。夏なんか特に。熱いね。」
「森武さん、あの場面、熱いとこ、日本の物つくりのすごいところと教えたかった?」
「うーん、あそこも熱くて大変だけど。特に見せたいところがあって。」
「え?どこ?」
「 検査。」
「重み、厚み、外観、コーティング。最後に厳しい検査があったね。重量が規格内か、厚みが均一か、コーティングにムラがないか。品質へのこだわりがあるね。」
「うーん・・・」
「ははは、少しずつでいいんだよ。一緒に勉強しよう。」
「ねえ、森武さん。自分で買ったお菓子を職人さんにあげたのは、お礼?激励?私にはわからなかった。」
「あ、あれ?あれは、友人として持って行ったただのお土産。おいしいスイーツ見つけたから食べてっていう感じかな。ははは。」
「ん-、わかんないです・・・」
車中から二人の笑い声が漏れた。
「エミリー、飛行機の時間まで少しあるから、ちょっと見せたいものがある。」
「なんですかぁ。」
二人が着いたのは、花巻市にある宮沢賢治記念館。
宮澤賢治は、「雨ニモマケズ」で知られる詩人であり、『銀河鉄道の夜』などを残した童話作家でもある。また、農業学校の教師として農民の指導にも力を注いだ人物だ。
「エミリー、ここには英語のパンフレットもあるし、パネルもある。時間がある限り、見ていこう。ぼくも久しぶりに来たくなってね。」
エミリーは、興味深そうにパンフレットを片手に展示物を見ていた。
そして、
記念館の展示室のあるパネルの前で立ち止まったまま動かなくなった。
そこに書かれた「雨ニモマケズ」の冒頭を、エミリーは何度も読み返していた。
「アメニモ負けず、風にも負けず、雪にも夏の暑さにも負けず」
「この詩、きれい。」
「この賢治という人は、こんなふうに生きたいって言えるなんて、なんてまっすぐな人。」
もりもりが、エミリーの横に来た。何も言わずにエミリーの横に立っている。
「森武さんもこの詩、好きですか?」
「大好きだよ。」
エミリーは冒頭が好きだと言うと思ったが、もりもりは違うことを言った。
「ぼくは、最後のほうが好きだな。」
「最後?」
もりもりは、詩の終わりの部分を指で示した。
「日照りの日は泣いて、 寒い夏はおろおろ歩く。
自然の前では、人間は無力だってことを、ちゃんと分かってる。」
「弱さ?」
「いや、弱さというか・・・ 自然の猛威には勝てない。 だからこそ、農民の苦しみに寄り添おうとしてる。
賢治は、そういう人だったんだと思う」
一緒に、展示室を抜け、外に出た。
古い黒板が置かれた小さなスペースに、白いチョークの文字が残っていた。
ウラノハタケニイマス
エミリーは、その一行を見た瞬間、足が止まった。
「賢治、いつも畑にいたんだ」
もりもりは静かに頷いた。
「賢治は机の上じゃなくて、現場が好きだったんだな。」
その言葉を聞いた瞬間、 もりもりと賢治が重なった。
「ここに連れてきてくれて、ありがとう。」
軽くハグをするエミリー。
もりもりは少し驚き、エミリーを見た。
エミリーはドキリとしてすぐに目を逸らした。
エミリーは、自分の心臓がなぜドキドキしているのかわからなかった。
「今度は、生産管理部と調達部のエース候補がいるから、四人でいこう。」
「エース候補?」
「そのうちわかるよ。」
「はい!」
「みんなで花巻温泉で泊まるか?」
「Oh my god!」
そして、改めて言い直した。
「ユウキ、今日は本当にありがとう!」




