最終兵器!身長153cm黄金比率の長野ユウ
土曜日の早朝、ジムの駐車場に、ジルコンサンドメタリックのロードスターが滑り込んできた。
降りてきたのは、身長153センチの小柄な女性。
髪はグラディーションボブを綺麗なシルバーで染めている。
切れ長の目、きゅっと結ばれた口元。
かわいいと言うには整いすぎていて、美人と言うにはどこか幼さが残っている。
だが、そのシルエットは小柄という言葉では収まらない。
脚のラインは無駄がなく、 誰が見ても健康的なバランスが完璧。
上半身は、黒いスポーツブラの上にタンクトップで控えめに抑えられ、トレーニングの邪魔にならないようにしている。
“黄金比率”という言葉が、自然と浮かぶ。
その女性は、長野ユウ。二十二歳。
輸入雑貨の会社を立ち上げ、従業員二人を抱える若き社長である。
もりもりは、ワイヤーマシンの片側を使って、ワイヤープレスダウンを行なっていた。
そこへ、長野ユウが来て、
「あの、片側を使っていいですか?」
「空いてるからどうぞ遠慮なく。」
長野ユウはお礼をいい、一番下に位置していたアタッチメント部分を上げようとして、なかなか上に行かない。
「あれ?ん、ん。」
「あがりませんか?」
「はい。」
「そうですよね。これ、男性でもなかなか上がらない時がありますからね。」
もりもりがやると、ひょいと上がった。
「わ!ありがとうごさいます。」
笑うと少し幼く見える。
「じゃあ、ぼくは、これで。」
「ありがとうごさいました。」
1時間後、シャワーを浴びて帰ろうとすると、自販機の前で長野ユウが、小銭入れをジャラジャラいわせている。
「あー、失敗した。」
「どうしました?」
「あ、さっきの。実は、電子マネーも小銭も足りなくて。空のペットボトルだけ、持ってきて。」
「それは大変だ。水素水飲みますか?」
「でも、私、水素水サーバーのお金はらってないんです。」
「ぼく、飲み放題だから、こっち来て。」
水素水サーバーから、ユウのペットボトルに水素水を入れて渡すもりもり。
「ありがとうございます。一度飲んでみたかったんです。」
「冷たくて美味しい。」
「ほら。気泡が見えるでしょ。これ、水素。」
「ええ。ほんとに身体の酸化防げるのかな?」
「信じるものは救われる、かな?笑」
一緒に微笑むユウ。
「ところで、綺麗な髪色ですね。」
「ありがとうございます。」
「ブリーチするんですか?」
「はい。そうしないと、綺麗に染まらなくて。」
「ぼくも、白髪が出てきたので、シルバーにしようかと思ってて。」
「いいと思います。そうしたらお揃いですね。」
「ほんとだ、今度、その美容室を紹介してもらおうかな。」
「もちろん。おじさんが来たら、喜びますよ。あ、ごめんなさい。おじさんなんて。」
「ははは、おじさんだから。気にしないでください。似合ってますよ、髪。とても可愛いですよ。」
「え?」
といい、長野ユウは顔を真っ赤にして、手で覆った。
「は、はずかしい・・・でも、嬉しいです。ありがとうございます・・・」
まだ、顔を手で隠している。
お構いなしに、もりもりが訪ねた。
「ロードスターに乗ってます?」
パッと覆った手をどけて、髪を耳にかけた。
そして、満面の笑みで、
「はい!私です!」
「屋根は幌ですよね?畳んだ時、視界を遮るものが何もない。フルオープンの時はいかがですか?」
「もう最高です。爽快感がなんとも。」
「そうだろうなぁ。音楽聞こえるんですか?」
「はい、街中であれば、普通に聞こえますよ。スピード上げてもボリュームを高くすれば大丈夫。」
「実は、Mazdaファンで。」
「え?ひょっとしてXってあなたの?」
「はい。Mazda3のXに乗っているよ。」
「Black Tone Edition?」
「そうそう。」
「えー、渋い。だれが乗っているんだろうって、気になっていたんです。Mazda3って、4つドアのついているロードスターって言われているし、興味はあったんです。内装もしっかりしていて。」
「詳しいね。」
「私もMazdaマニア・・・」
「そうなんだ!」
「Xって、ハイブリッドなんだけど、燃費そんなによくないですよね。」
「そうなんだよ。走りをサポートするためのモーターだからね。でも、2,000cc弱だけど走りはいいよ。」
「あのー、ちょっと、中見たいです。」
「ぼくも、ロードスターも見せて!」
一緒にそれぞれの車に乗り、中を見せ合う。
「あ、スピーカーはBOSEですね。いいなあ。」
「ユウさんのは?」
「いえ、
BGMは風切り音でいいやって。BOSEじゃないんです。」
「ちょっと聞く?」
「はい!」
駐車中のMazda3に乗り、
「わー、やっぱり違う。エンジン音もすごく静か。Mazda3で高速走ってみたい。」
「じゃあ、今度、お互いの車に代わり番こに一緒に乗って、ドライブしませんか。」
「あ!いいですね。幌を外します?」
「是非!」
「あの、なんて呼べは?」
「みんな、もりもりって、呼ぶけど。本名は森武ユウキだよ。」
「私は、長野ユウ。お互いユウが付きますね。」
「ホントだね。笑」
「じゃあ、お互いユウちゃんはどうかしら?」
「あー、いいな。新鮮。あと、タメで大丈夫。」
「うん、そうする。ユウちゃん。うーん、ユウくんでもいい?」
「いいね、それ!じゃあ、ユウちゃん、ユウくんで、呼び合おう。よろしくね。」
「うん!」
ジムから帰り、長野ユウは自宅にいる。
実は、帰りがけに交わしたもりもりの言葉が妙に頭にこびりついて、離れない。
その時の会話。
「実は私、個人事業で輸入雑貨を取り扱う会社をやっているんです。」
その若さでと、驚くもりもり。
「今は一人でやっていますが、将来は10人の従業員をもつ会社にするのが夢なんです。」
「それはすごいことだよ。10人もの雇用を創出するなんて、だれでも出来るわけではない。」
「はい!がんばります!」
「その夢が叶ったら、その10人を幸せにしないとね・・・」
ユウくんの言葉、
棘のある言い方だった・・・
その10人を幸せにしないとね・・・という言葉がなんか寂し気に聞こえたのだ。
ユウは、雑貨が好きで、新たな雑貨を部屋に置いて、それを見るのが好きだった。
心が豊かになるような気分になれる。
趣味が高じて、輸入雑貨を始めたのだ。
初めて輸入雑貨に触れた時。
初めて自分の仕入れた雑貨が売れた時。
お客さんが、買った雑貨が気に入って大事にしていると連絡をくれたとき。
会社を始めた頃の大変だったが、夢が叶い幸せな日々。
思わず、そのシーンの中の、自分自身、お客さんの笑い声が聞こえたようだった。
と同時に、胸に突き刺さっていた棘が一気に外れた。
「あ、私、いつから、会社を大きくすることが目的になったのかしら。雑貨に囲まれているときの幸せを皆にお裾分けすることじゃななかったの?」
次の日、もりもりとジムであった。
長野ユウは、もりもりを見て、キッパリと言った。
「ユウくん!私、雑貨が大好き!本当にありがとう!」
吹っ切れたようなユウの満面の笑みを見て言った。
「ユウちゃん。今度、店に顔出すよ。」
「お待ちしてます。ユウくん。」
と、ニッコリ微笑み、髪を耳にかけた。
もりもりを見つけ、声をかけようと宮田姉妹が、近づいてきたときの出来事だった。
「え、え?何で?あの綺麗な子を知ってるの?」




