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ようこそ最前線の地獄(職場)へ。 軍師リナ、8歳です  作者: 輝夜
第十一章:『一年という名の礎』

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こぼれ話:『帝国劇場の天翼の軍師様』

 

 帝都の大通りは、今日も活気に満ち溢れていた。

 行き交う人々の笑い声、市場から漂う香ばしい匂い。かつての暗い影はどこへやら、誰もが明日への希望をその顔に宿している。


「あら、シャルル! 今日もお買い物?」

 八百屋のおばちゃんの威勢のいい声に、私は買い物かごを抱え直して微笑んだ。

「ええ。今夜の舞台の前に、ちょっと腹ごしらえをね」

「まあ! 今夜も『天翼の軍師』様を演じるのね! 頑張ってちょうだいよ!」

 おばちゃんは真っ赤に熟れたリンゴを一つ、おまけしてくれた。


 そう、私の名前はシャルル。帝国劇場で今話題の演目『新生・天翼の軍師伝説』の主役を務める女優だ。

 街を歩けば、至る所で軍師様の噂話が聞こえてくる。

「軍師様のおかげで、息子が戦地から帰ってきたんだ」

「新しい交易路ができて、商売繁盛だよ」

 誰もが顔も知らぬその英雄に感謝し、その物語に熱狂している。私が演じるのは、そんな皆の希望そのものなのだ。


 劇場に入り、楽屋の鏡に向かう。

 白粉をはたき、銀色のウィッグを被る。

「ねえ、シャルル。最近、お客さんの入りがすごいわよね」

 衣装係のミアが私の背中の紐を締め上げながら言った。

「ええ。前回の公演なんて、立ち見まで出たんですって」

「平和になったからねぇ。みんな娯楽に飢えてたのよ」

 小道具係の青年がピカピカに磨き上げた「伝説の聖剣(木製)」を持ってくる。

「それに、この物語が好きなんだよ。絶望の中から現れて、誰も殺さずに勝利する……そんな綺麗な奇跡をみんな信じたいんだ」


 準備完了のベルが鳴る。

 深呼吸を一つ。私はシャルルから『天翼の軍師』へと変身する。


 幕が上がる。満員の客席から熱気のような期待が押し寄せてくる。

 私は舞台を舞う。剣を振るい、悪を討つ。その一挙手一投足に観客が息を呑み、歓声を上げる。


 そして、クライマックス。

 ワイヤーアクションによる空中浮遊のシーンだ。

「――いざ、浄化の時!」

 私は合図と共に宙へ舞い上がる。舞台装置が光を放ち、私は光の粒子に包まれる。

 だがその時。

 バランスを崩し、体がぐらりと傾いだ。

(――っ! しまった!)

 一瞬背筋が凍る。観客の悲鳴が聞こえた気がした。

 だが、私は空中で無理やり体勢を立て直し、必死の形相で……いや、慈愛に満ちた女神の微笑みで、最後の決めポーズを取った。


「――光あれ!」


 一瞬の静寂の後、劇場が揺れるほどの喝采が爆発した。

「軍師様ー!」「ブラボー!」

 舞台袖に戻った私はへなへなと座り込んだ。心臓が早鐘のように打っている。

「危なかったわね、シャルル」

 舞台監督が苦笑いしながら水を渡してくれる。

「ええ……。でも、なんとか誤魔化せたかしら?」


 終演後、楽屋口には出待ちのファンたちが溢れていた。

「感動しました!」「勇気をもらいました!」

 その笑顔を見ていると、疲れも吹き飛ぶようだ。


 私は夜空を見上げた。そこには本物の軍師様が見ているであろう同じ月が輝いている。

「ありがとう、軍師様。あなたのおかげで、私たちは今日も笑って暮らせています」


 いつか本物のあなたに会えたら。

 その時は私のとびきりの演技で、あなたを笑顔にして差し上げますね。


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― 新着の感想 ―
 輝夜さん、こんにちは。 「ようこそ、最前線の地獄(職場)へ。 私、リナ8歳です こぼれ話:『帝国劇場の天翼の軍師様』」拝読致しました。  天翼の軍師を演じる役者さん、シャルルのお話。  帝国の希望…
 ワイヤーアクションは怖いよね、昔は2本だけで吊っていたら1本が切れて事故が起きそうになった話とかあるし。
今後はよくあるパターンだと、演じられている姿を参考に本物の行動が変わっていくってやつかな? そうか!あんな感じで動けば良いんだ!
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