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鋼鉄のASMR:無自覚少女がスーツの吐息で世界を救うまで  作者: すかいはい


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第5話:【共鳴】リミッター解除、シンクロ率400%

 深層遺跡ダーク・ゲート、第十四区画。


 そこは、今まで遭遇したどの『鋼魔こうま』とも違う、異様な圧迫感に満ちていた。


「――っ、がはっ……!」


 衝撃。白い装甲が火花を散らし、白華しろかの体はコックピット内で激しく揺さぶられる。


 モニターには『警告』の赤文字が猛烈な勢いで点滅し、ガーデニアの右腕からは不吉な駆動音が漏れていた。


「白華! 応答して、白華!」


 通信越しに響く凛音の声が、心なしか震えている。


 目の前に立ち塞がるのは、四足歩行の巨大な機械生命体。その全身から放たれる電磁波が、白華の感覚を麻痺させていた。


「……あ、うぅ……凛音、ちゃん……。手が、動かないよ……」


 呼吸が苦しい。肺が押し潰されるような重圧。


 自身の荒い吐息が、高性能マイクを通じて世界中に配信されていることなど、白華にはもう考える余裕もなかった。


【ライブ配信:白華の安否確認チャンネル】

同接数:180,000人

『おい、これガチでやばくないか?』

『白華ちゃんの呼吸が……これ、意識が遠のいてる音だぞ』

『笑えないぞ。運営、早く強制帰還させろよ!』


「エコー、同期シンクロレートを上げて! 彼女の神経系をバックアップするの!」


 凛音が叫ぶ。だが、補助AI“エコー”は無慈悲な正論を突き返した。


『――否定。マスター白華のバイタルは限界です。これ以上の負荷は精神崩壊を招きます。……救出の唯一の解は、外部からの「リズム補助」による出力強化ですが、この基地には該当する演算機が存在しません』

「演算機なら、ここにいるわよ……!」


 凛音は自分の胸に手を当てた。


 彼女の心臓もまた、親友の危機に際して、狂ったような速さで脈動している。


 借金の返済だとか全世界に恥ずかしい配信をしていることだとかそんなのはもうどうでもよかった。


 通信の向こう側では今まさに白華の命が失われようとしている。それを思うだけで凛音の胸は激しくざわついていた。


 彼女を助ける。今の凛音はただそのことだけを考えていた。


「私のバイタルを、ガーデニアのOSに直結ダイレクトで叩き込んで。白華の鼓動と、私の鼓動を……一つに重ねるのよ!」

『マスター凛音、その行為は倫理プロトコルに反しており――』

「うるさい! 早くしなさいっ!!」


 ――白華の意識が白く染まりかける。


「……っあ、……ぁ……」


 その時。彼女の耳元で、親友の声が聞こえた。


 通信越しの音ではない。まるで白華の脳内に、彼女が直接語りかけてきたような――。


『白華、聞こえる? ……私の、音を感じて』

「……凛音、ちゃん……?」


 ――ドクン。


 突然、白華の心臓とは別の、強くて、激しい鼓動がスーツを通じて伝わってきた。


 熱い。凛音の体温が、血流が、感情が、白華の回路に流れ込んでくる。


『白華! 私の鼓動に合わせて! 二人で、一つになるのよ!』


 ドクン。ドクン。ドクン。


 二人の心音が、完璧なリズムで重なり合う。


 その瞬間、ガーデニアがまばゆいまでの純白の光を放った。


 補助AI“エコー”がその現象を冷静に解析する。


『――生体共鳴率、400%を突破。未知の出力向上を確認。リミッター、全面解除します』

「……あ、ああああああああっ!!」


 力が、溢れてくる。凛音の勇気が、白華の右腕に宿る。


 白華は重低音を響かせるパイルバンカーを、迷わず敵の核へと叩き込んだ。


「いっけぇぇぇぇぇっ!!」


 遺跡全体を震わせるような、澄み渡る打撃音。それは、どんな音楽よりも美しい、二人の魂が共鳴した『音』だった。


 爆炎の中、敵が沈黙する。静寂が訪れたコックピットの中で、白華は深く、深く息を吐いた。


「はぁ、……はぁ、……凛音ちゃん……やった、よ……」


 モニターには、二人の心拍波形が完全に一つに重なったグラフが映し出されている。


 そして、その下には――。


『お幸せに』

『結婚おめでとう』

『全人類が見守った披露宴だったな』

『至高のASMR。これ以上の「音」は、この世に存在しない』

ご祝儀(スパチャ)置いときますね』


 画面を埋め尽くすのは、皮肉でも冷やかしでもない、圧倒的な祝福の嵐。


 凛音ちゃんは、オペレーター席で顔を真っ赤にし、涙を浮かべながら、それでも震える声で呟いた。


「もう、どうにでもなれ……」


 機体が帰還し、ハッチが開く。白華は駆け寄ってきた凛音の胸に飛び込んだ。


「ごめんね、凛音ちゃん。心配かけて」


 凛音は、少しだけ躊躇ためらったあと、彼女の手をぎゅっと、壊れそうなほど強く握りしめた。


「白華、二度と死にかけたりなんかしたら承知しないからね。……ううん、そうじゃない。私が、させない。覚悟しなさいよ。もう、一生あんたの手、離してあげないんだから」

「凛音ちゃん、それってどういう……?」

「鈍いわね! 一生あんたの隣にいてあげるって言ってるの!」

「本当に!? 嬉しいなぁ。これからもずっとずっとよろしくね、凛音ちゃん!」


 白華が無邪気に笑う。


 その瞬間、補助AI“エコー”の声がした。


『愛の告白、およびその承諾を確認。配信アカウント名を「白華と凛音のカップルチャンネル」に変更しました』


 抱き合ったまま凛音の絶叫がこだまする。


「余計なことすんな、このボケナスAIぃいいいい!!」


 世界中には、二人の重なり合う心音がいまだに響き続けていた。

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