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鋼鉄のASMR:無自覚少女がスーツの吐息で世界を救うまで  作者: すかいはい


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第6話:【外圧】借金取りも「ファン」になってるんですけど!?

 昨夜の『共鳴』の余韻よいんが冷めやらぬ、翌朝のことだ。


 白華しろか凛音りんねの拠点である古い整備工場には、不釣り合いなほど荒々しい車のブレーキ音が響き渡った。


「おい、いるんだろ! 開けろ!」


 ドンドンと、鉄の扉が乱暴に叩かれる。


 白華はビクリとして、作業中のスパナを落としそうになった。凛音は瞬時に顔をけわしくし、彼女の前に立ちはだかる。


「……またあの借金取りね。しつこいわね、昨日の今日で」


 凛音が忌々しそうにシャッターを開ける。


 そこには、前回よりも人数を増やした、いかついスーツ姿の男たちが並んでいた。リーダー格の、顔に傷跡がある大男――権田ごんだが、鋭い目つきで二人をにらみつける。


「……約束通り、利息分は振り込んだはずよ。何の用?」


 凛音の冷たい声に、権田は無言で一歩踏み出した。威圧感に気圧けおされ、白華は思わず凛音の背中にしがみつく。


 暴力か、あるいはさらなる取り立てか。最悪の予想が頭をよぎったその時――。


「……みなと、白華ちゃん。いや――湊白華、様」


 権田が、地を這うような低い声で白華の名前を呼んだ。そして、彼は懐からタブレットを取り出し、二人の目の前に突き出した。


「昨夜の第十四区画での一撃……あの瞬間の、28分42秒。パイルバンカーを打ち込む直前の、『くっ、……ああぁっ……!』という唸り声。……最高でした!」

「…………は?」


 凛音の口から、間の抜けた声が漏れた。権田の後ろに控えていた部下たちも、一斉に深く頭を下げる。


「白華様の心音を聴きながら酒を飲むのが、我ら『白華親衛隊・金融支部』の唯一の癒やしです!」

「あの絶妙なノイズ混じりの吐息、最新の立体音響システムで事務所の壁一面から流させていただいております!」

「えっ、えぇ……? ありがとうございます……?」


 よく分からないが、褒められている。白華が戸惑いながらお辞儀をすると、権田は感極まったように鼻をすすり、懐から一枚の書類を取り出した。


「あまりの感動に、組織の上層部を説得してきました。白華様、今回の『至高の共鳴音』への祝儀として、今月の利子分は全額免除。さらに、元本の金利も半分に下げさせていただきます!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」


 凛音が、我慢の限界といった様子で身を乗り出した。


「利子をまけるのはいいわよ、助かるから! でも、何よその『白華親衛隊・金融支部』って!? あんたたち、借金の取り立てに来たんじゃないの!? なんで自分の債務者の『重課金勢』になってるのよ!」

「お嬢ちゃん、これはもうビジネスじゃない。……『信仰』だ」


 権田は遠い目をして、タブレットに映る切り抜き動画を愛おしそうにでた。ガーデニアに搭乗した白華の戦闘シーンだ。


「うわっ、キモい!」

「あの極限状態のバイタル。死と隣り合わせの場所でしか出せない、命の震え……。あれを聞いて、正気でいられる男がいるか? 俺たちは白華様の鼓動を守るためなら、組織の帳簿だって書き換えてやる」

「この世界の倫理観はどうなってるのよぉぉぉ!!」


 凛音のツッコミが工場の天井に虚しく反響する。


 借金取りという『外圧』が、いつの間にか『異常に熱狂的なファン』という、より御しがたい存在へと変貌していた。


「白華様、次の配信も期待しております。特に、あのパワードスーツが軋む音と、白華様の細い呼吸が混ざり合う『静寂の10分間』のような構成を……!」

「わ、分かりました! 私、もっと良い音が届くように頑張りますね、権田さん!」

「ああっ、名前を呼んでいただけるとは……! お前ら、今日のご祝儀(スパチャ)は一人最低一万だぞ!!」

「うおぉぉぉぉっ!!」


 男たちは、まるで嵐のように去っていった。


 あとに残されたのは、静まり返った工場と、あてどなく上昇を続ける二人の口座残高、そして――。


「……もう、嫌。この界隈、変態しかいない……」


 頭を抱えて座り込む、限界寸前のメカニックの少女だけだった。


「凛音ちゃん、元気出して? お金も貯まってきたし、これならすぐに完済できそうだね!」

「そういう問題じゃないのよ……。でも、まぁ、いいわ。あいつらが味方になったなら、不当な取り立ての心配はなくなったわけだし……」


 凛音は、真っ赤になった顔を隠すように立ち上がると、白華の手を引いてガーデニアの方へと歩き出す。


「……白華。次の配信、覚悟しなさいよ。……もっと、あんたの『良い音』を独占できる設定を、私が一から組み直してあげるから」

「あはは。凛音ちゃん、やる気だね!」


 凛音の瞳の奥に、独占欲と使命感が混ざったような、怪しい光が宿っていることに、白華はまだ気づいていなかった。

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