表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼鉄のASMR:無自覚少女がスーツの吐息で世界を救うまで  作者: すかいはい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/16

第13話:【窮地】作られた「美音」VS 命がけの「本音」

 遺跡の深部から、地をうような不気味な咆哮が響いた。


 現れたのは、音を吸い込み、周囲の電子機器を狂わせる深層の捕食者――『絶響ぜっきょう鋼魔こうま』。


「なっ……何、この敵!? センサーが、ノイズで真っ白に……っ!」


 完璧を誇ったメロの『カデンツァ』の調律が、敵の放つ強烈なジャミングで狂い始める。


 そして――。


 逃げ場のない狭い回廊で、白華しろかは巨大な鉄の爪に追い詰められた。


「あ……、あぁ……っ!!」


 装甲が悲鳴を上げ、白華は衝撃で意識が遠のきそうになる。スコアはもはや見る影もなく地に落ち、絶体絶命の窮地へと叩き落とされた。


「――くっ、……ぁっ!?」


 視界が火花を散らし、真っ白に染まった。


 『絶響の鋼魔』が振り下ろした巨大な爪が、ガーデニアの肩装甲を紙細工のように引き裂く。コックピット内に響き渡る嫌な金属音。それはもはや、凛音りんねが調整した『心地良いノイズ』などという次元を通り越していた。


「白華! 逃げて、早く!!」


 通信ウィンドウの凛音が絶叫する。だが、白華の体は衝撃で麻痺し、指先一つ動かせない。


 隣では、メロの『カデンツァ』も同様に敵のジャミングを受けていた。


「な、何よこれ……音が、音が作れないじゃない……っ!」


 メロの声に焦りが混じる。彼女の背後にいるプロの音響チームは、この異常事態でも『美しすぎる音』を維持しようと必死に合成音を被せていた。


 しかし、それが仇となった。


【ライブ配信:音の頂上決戦】

同接数:450,000人

『……ん? メロの音、なんか変じゃないか?』

『ノイズだらけのはずなのに、妙に澄んだ音が混じってる。合成か?』

『不気味だ……。戦場なのに、音が作り物っぽすぎて怖くなってきた』

 

 一方で、白華のガーデニアは既に満身創痍だった。


 補助 AI“エコー”の演算も追いつかず、凛音が施したフィルターも次々とがれ落ちていく。


 マイクが拾っているのは、もはや調律されたASMRではない。

 

 ガタガタと震える彼女の歯の根。「ひっ、……あ、……ぁ……」という、死の恐怖に直面した本気の喘ぎ。激しく、不規則に、壊れた時計のように刻まれる心音。


「……こわい。……凛音ちゃん、……たすけて……っ」


 それは、世界で一番無様で、惨めな声だった。プロが決して配信には載せない、加工不可能な『本音』の音。


 だが、その瞬間。リスナーの反応が、劇的に変容した。


『……おい。白華ちゃんの、この声……』

『メロの綺麗な音を聞いても何も感じなくなってたけど、でも、こっちは……心臓を直接握られてるみたいだ』

『震えてる。本当に、彼女の命が震えてる音がする……!』

『今、俺たちが聴いてるのは本物の命の音だ……!!』

【脳波快楽指数:メロ 45 ↓ / 白華 82 ↑】


「……嘘。どうして……!? こんな汚い、ただの悲鳴なんかに……!」


  メロの叫びが響く。彼女の完璧な音響は、この極限の戦場において虚構に成り下がっていた。


 対して、白華の『汚い音』は、皮肉にもこの閉塞感に満ちた遺跡において、唯一の真実としてリスナーの魂を震わせ始めたのだ。


「……白華」


 凛音の声が、低く、力強く響いた。


 彼女はもう、ノイズを消そうとはしていなかった。むしろ、白華の恐怖も、震えも、その全てを剥き出しのまま増幅し、世界へと叩きつけていた。


「怖くてもいい。震えててもいい。……その『音』が、あんたが生きてる証拠よ。……見せなさい、あんたの、本当の命の音を!!」

「……っ!!」


 白華は、震える手で操縦桿を握り直した。


 死ぬほど怖い。心臓が痛い。だが、この音を聞いてくれている人たちがいる。凛音が、自分の命の音を、一番近くで信じてくれている。


「……あ、……あああああああああああっ!!!」


 絶叫とともに、白華はパイルバンカーを起動させた。

 

 それは美しく調律された楽器の音などではない。泥臭く、必死で、あまりにも生々しい――少女の本音が炸裂した音だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ