第12話:【対決】どっちの音が「気持ちいい」か? 公開合同ミッション開始!
「……いい、白華。あんな女に、あんたの音を否定されたままになんてさせないわ」
決戦当日。第十六区画『深層ホール』の入り口に、対照的な二機が並び立っていた。 音無メロが操る、最新鋭の音響特化型パワードスーツ『カデンツァ』。磨き上げられた装甲は鏡のように光を反射し、周囲には彼女専用の移動放送局車が陣取っている。
対する白華の『ガーデニア』は、相変わらずの型落ちだ。しかし、その内部は一週間にわたる凛音の徹夜作業によって、魔改造を通り越した『精密機器の塊』へと変貌していた。
「見てなさい。プロの機材が何よ。……愛の重さが違うのよ、愛の重さが」
通信画面の凛音は、目の下に深いクマを作りながらも、狂気じみた笑みを浮かべていた。彼女はこの一週間、白華の『皮膚の震え』と『筋肉の軋み』を最も美しく拾い上げるためだけに、ガーデニアのセンサー系を再構築したのだ。
【ライブ配信:音の頂上決戦・深層合同ミッション】 同接数:420,000人(待機中)
『ついに始まったな。天然の白華VS計算のメロ』
『ルールは単純。「脳波快楽指数」の平均値が高い方の勝ちか』
『メロの音は「聴く麻薬」って言われてるからな。……白華ちゃん、大丈夫か?』
「準備はよろしくて? 湊白華。プロの『調律』がどれほど残酷なものか、その身と耳に刻んで差し上げますわ」
メロの挑発的な合図と共に、ミッションが開始された。
「カデンツァ。音無メロ。出ますわ!」
「ガーデニア。湊白華。行きます!」
二機が同時に、遺跡の奥へと滑り込む。まず動いたのはメロだった。
彼女の『カデンツァ』が滑らかに駆動するたび、配信には信じられないほど透き通った『音』が流れ出す。
『――システム、メロディック・モード起動。全音域を黄金比で調律します』
それは、戦闘音ですら音楽に変えてしまうような、究極の調律。
メロが鋼魔を斬り倒すたびに、耳を撫でるような高音の火花と、腹に響く心地よい低音の余韻がリスナーを包み込む。
『……すごい。心地良すぎて脳波が溶けた。雑音が一切ない』
『これが「聴く麻薬」か。一点の曇りもない完璧なクリスタル・サウンドだ』
画面下のスコアが、メロ側に大きく傾く。
【メロ:85】/【白華:42】
「……っ。……あ、あう……」
白華は焦った。メロの完璧すぎる音を聞かされ、自分の『音』が酷く不細工なものに思えてしまったからだ。
緊張で体が強張り、動きがぎこちなくなる。凛音が極限まで上げた感度のマイクが、白華の迷いを無慈悲に拾い上げる。
ガチ、ガチッ。と、機体の関節が硬く鳴った。それは心地よいASMRではなく、ただの不快な機械音としてリスナーに届いてしまう。
「白華! 集中しなさい! 自分の呼吸だけに集中して!」
凛音の怒号が響くが、一度狂ったリズムは簡単には戻らない。
メロの『カデンツァ』は、まるで優雅に踊るように鋼魔を殲滅し、そのたびにリスナーの脳波指数を塗り替えていく。
「おーっほっほ! どうしたのかしら? その程度の雑音で、私と競うつもりでしたの?」
メロの余裕たっぷりの声。彼女の音響チームは、メロの呼吸一つ、言葉一つを、最も魅力的に聞こえるようリアルタイムでエフェクトをかけていた。
それに対し、白華の音はほぼ無加工、生の音だ。
白華の恐怖、動揺、未熟な操作。凛音が磨き上げた『生体共鳴システム』は、白華の『弱さ』までもを、あまりにも鮮明に世界へ晒し出していた。
【脳波快楽指数:メロ 92 / 白華 38】
「あらまあ。……これじゃあ、まるでお遊戯会ね」
早くもメロが勝利を確認した笑みを浮かべる。
『これは勝負あったな』
『初めから白華ちゃんじゃあ勝ち目がなかったんだ』
リスナーのコメントすらも、白華の心に氷のように冷たく突き刺さった。
「……凛音、ちゃん。ごめん、私……上手く動けないよ……」
「白華、しっかりして! まだ始まったばかりよ!」
凛音の叫びも虚しく、ガーデニアの機動は鈍くなっていく。
その時、ダンジョンの奥から、これまでの鋼魔とは比較にならないほどの『負の波動』が溢れ出した。
それは、音を吸い込み、絶望を吐き出すイレギュラー。二人の対決を嘲笑うかのような、沈黙の捕食者だった。




