魂の死、そして冷徹なる断頭
ご拝読ありがとうございます。
本作品は、最愛の裏切りから始まる、ドロドロとした愛憎と復讐の物語です。
※一部、精神的に辛い描写(NTR・残虐描写等)が含まれます。
復讐の果てに何が待っているのか――主人公の行く末を、最後まで見届けていただければ幸いです。
騎士団長としての、異常な腕力。文官である俺には、防ぐ術などない。
ごり、と骨が軋む音。呼吸が途絶え、視界がチカチカと明滅する。
「……あ、あ……あぁ……」
俺の嗚咽を聞いて、リリアナは冷ややかな溜息をついた。
彼女の瞳には、かつて俺に向けられた愛など微塵も残っていない。ただ、深い嫌悪と、退屈なものを見るような軽蔑があるだけだ。
「……信じられないわ」
リリアナは俺の胸ぐらを掴み上げ、壁に叩きつけると、嘲るように吐き捨てた。
「どうして、こんなくだらない男を愛していたのかしら!」
その言葉が、俺の魂を切り裂く。
俺が守りたかった日常は、彼女のその一言で、音を立てて崩れ去った。
「さて、まずはそのうるさい口を黙らせましょうか」
リリアナはふっと微笑むと、俺の顎を掴み、そのまま唇を重ねてきた。
再会の喜びの口付け――そう信じた刹那。
――激痛が、脳天を突き抜けた。
口の中に広がる生温かい鉄の味。愛するはずの女が、今、俺を獲物として蹂躙している。声帯を焼き切るような痛みに、俺はただ震えることしかできない。
彼女は唇を離すと、血に濡れた口元を三日月のように歪め、ニヤリと笑った。
「あら、いい音ね。もっと鳴かせてちょうだい、カイラス」
彼女は血の混じった唾を俺の顔に吐き捨てると、俺の髪を掴み、そのまま地下へと引きずり込んでいった。俺の意識は、底なしの絶望へと引きずり込まれていく。
何度目かの責め苦のあと、俺は床に倒れ伏していた。
指は砕け、全身は血と泥にまみれている。だが、今の俺には何も感じない。ここはもう、人間が居ていい場所じゃない。俺はただの壊れた肉塊だ。
「ほう。もう何も感じないようですね?」
暗闇から、鈴を転がすような声が響いた。
影の中から現れたのは、優雅な外套を纏った魔族だった。俺を弄んでいたリリアナは、その男の足元に跪き、信奉者そのものの表情で顔を上げる。
「……ゼノス様」
リリアナの口から出たその名に、魔族――ゼノスは満足げに笑った。
彼はリリアナに寄り添うと、その白い手を無遠慮に伸ばし、彼女の誇りを汚すように触れた。
かつて王国最強の騎士団長として、誰にも触れさせなかった彼女が、今は魔族の玩具として雑に扱われている。
その光景を目の当たりにした瞬間、死に絶えていたはずの俺の心臓が、痛烈に跳ねた。
消えていたはずの痛覚が、怒りと嫉妬という名の毒となって全身を駆け巡る。
「あぁ〜……ステキです、ゼノス様……」
リリアナは陶酔した瞳で魔族を見上げ、その身を彼に委ねている。
俺という夫がいながら、彼女は……この男にすべてを捧げているのか。
部屋には、獣じみた熱気と、背徳の匂いが支配していた。
信じていた妻の姿が、今、完全に俺の知っているリリアナではなくなっている。
彼女が満足げに乱れた髪をかき上げ、こちらを振り返る。その瞳には、かつての愛しい面影など微塵もない。ただ、道端の石ころを冷淡に見下ろすような、死んだ魚のような眼差しがそこにあった。
ああ、そうか。俺の中にあった最後の希望が、音を立てて砕け散る。
彼女の魂は、俺の手の届かない場所で、この男に完全に食い尽くされたんだ。
心臓が、完全に死んだ。
ただ、この光景を作り上げた男と、この女を……殺したい。
「……もう、貴方には用はないわ」
リリアナは俺を一瞥すると、ため息をついた。
彼女にとって俺は、もう壊れた玩具に過ぎない。
「たっぷり痛めつけてあげたけれど……ええ、もう満足したわ」
リリアナは鞘から愛剣を抜いた。
研ぎ澄まされた刃が、薄暗い地下室の灯りを反射して鋭く輝く。
彼女は迷いなく、けれど驚くほど無慈悲に剣を振り上げた。
ザクリ、という硬質な音が響く。
視界がぐるりと反転する。
最後に見たのは、無表情で剣を鞘に収めるリリアナの背中だった。
俺の意識は、暗い闇の中へと沈んでいく。
死の瞬間の恐怖よりも強く、胸の奥で煮えたぎる殺意だけを抱いて。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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