地獄への招待状
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パチ、パチ、パチ。
乾いた拍手の音が、冷え切った夜の静寂を叩いた。
闇の中から現れたのは、不敵な笑みを浮かべたギルドマスター、ガロンだ。奴は、俺の腕の中でぐったりとしているマリを一瞥すると、底の知れない瞳で俺を射抜いた。
「――お前たちの実力、十分に見させてもらったよ。特にそこの嬢ちゃん……あんな『気配』を出すとはな。驚いたぜ」
俺はマリを庇うように腕に力を込め、ガロンを睨みつけた。
気配。奴はそう言った。
つい数分前、マリの背後に揺らめいた、あの肌を刺すような冷たい殺気。俺ですら一瞬、呼吸を忘れるほどの重圧だった。だが、今の彼女からはそんな毒気は一切感じられない。
「……ただ、取り乱しただけだ。驚かせて悪かったな」
俺は努めて平然を装い、奴の言葉をかわす。こいつに余計な詮索をさせるわけにはいかない。
「ククッ……まあいい。理由はどうあれ、お前たちが『使える』ことは分かった。お前たちに、ギルドからの特命依頼だ」
ガロンは追求を止め、懐から古びた羊皮紙を取り出した。
「ガレリア王城に潜入し、騎士団の動向を調べてほしい。今、騎士団は魔の森の人員を、急速にナント王国との国境付近へと終結させている……。おかげで魔の森が手薄なんだよ。国が何を考えているのか、ギルドとしても把握しておきたい」
「王城……騎士団だと?」
その言葉が耳に入った瞬間、俺の奥歯が軋んだ。
あの日、俺をあざ笑い、愛を騙って首を刎ねた女。リリアナ。彼女が、その場所にいる。
「名目は、騎士団の防具メンテナンス要員の助っ人だ。潜入には最適だろう? 報酬は金貨十枚だ。悪い話じゃないはずだが……」
「……っ、う……ん……」
その時、腕の中のマリが、弱々しく身悶えした。
焦点の定まらない瞳が、不安げに泳ぎ、俺の顔を捉える。
「お兄……ちゃん……? 私……また、迷惑かけちゃった……? 頭が、ふらふらするの……」
震える声。縋るような細い指先が、俺の服の袖を必死に掴む。
そのあまりに無垢な怯えに、胸の奥が微かに疼いた。だが、俺はそれを強引に押し殺す。
(――いや、これは『駒』だ。俺の復讐を完遂させるために、運命が用意してくれた強力な道具に過ぎない)
俺はマリの頭を一度だけ撫で、自分自身の震えを隠すようにガロンに向き直った。
「……分かった。引き受けよう」
沸き立つ殺意を、鉄の仮面の下に封じ込める。
金貨十枚なんてどうでもいい。
俺が求めているのは、あの女の首に手が届く、最短の道だけだ。
「期待しているぞ、ダン」
闇に消えていくガロンの背中を見送りながら、俺は再びマリを抱きかかえ、一歩を踏み出す。
(待っていろ、リリアナ。お前のいる地獄まで、俺が行ってやる)
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