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共犯者としての兄妹

いつも読んでいただきありがとうございます!

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。


 お兄ちゃんの叫び声で、私は目が覚めた。

 汚れた毛布を跳ね除け、私は身を起こす。薄暗い部屋の隅、お兄ちゃんが脂汗を流して荒い呼吸を繰り返していた。あの木から落ちた日以来、彼は毎晩のように何かにうなされている。

 私の知っているお兄ちゃんは、もうここにはいない。あれは、あの日死んだ。

 薄目を開けた彼が、私を見る。その瞳には、かつて私に向けられていた温かな愛情なんて欠片も残っていない。氷のように冷たく、すべてを値踏みするような、他人の眼差しだ。

 ……ああ、やっぱり。やっぱり、あなたは別人だ。

 中身が入れ替わったのか、それとも別の何かが憑りついたのかは知らない。けれど、そんなことはどうだっていい。

 今の彼には、この腐ったスラムを生き抜くための「牙」がある。かつて、優しさだけで私をかばって死にかけた、あのか弱かったお兄ちゃんはもういない。けれど、その代わりに、私を確実に明日まで生かしてくれる「怪物」が隣にいる。

 私はゆっくりと立ち上がり、彼が落としたナイフを拾い上げる。鞘を拭い、腰のベルトに差し直す。

 彼は私の動作を無言で見ている。そこに「妹への心配」なんて感情はない。あるのは「道具のメンテナンスを確認する職人」のような冷徹な確認だけ。

「……行くよ、お兄ちゃん」

「ああ」

 短い返事。それだけで十分だ。

 外に出れば、冷たい風がスラムの腐臭を運んでくる。飢えと暴力が支配するこの街では、泣き言を吐いた瞬間に喉を掻っ切られる。感情なんて贅沢品は、とっくの昔に捨てた。

 私は彼に追いつき、その背中にぴったりと張り付く。

 強くなる。絶対に強くなってやる。

 お兄ちゃんが何かとんでもない目的のために動いているのは知っている。彼が誰に復讐しようとしているのかも、察しはついている。

 でも、私が彼について行く理由は、そんな大層なものじゃない。

 ――生き残りたいからだ。

 この男の傍にいれば、地獄のど真ん中を歩くことになるだろう。それでも、一人で路地裏のゴミ溜めに落ちて犬死にするよりはマシだ。

 誰かを殺さなきゃいけないなら、私がやる。誰かが血を流さなきゃいけないなら、私が刃を研ぐ。

 私は彼を見上げる。その背中は、以前よりもずっと硬く、冷たい。けれど、その冷たさが今の私には心地いい。

 強くなる。彼が望むなら、私は悪魔にだってなってみせる。

 この腐った世界で、私だけは絶対に死なない。そのために、この「別人のお兄ちゃん」を、私の生存の盾として、最高の武器として使い倒してやる。

 そう心に誓い、私は朝日すら差さないどんよりとした空を見上げた。

 ここからが、私たちの本当の地獄だ。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

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