異物の証明
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
それでは12話です。
洞窟を出た俺たちの顔には、達成感などという甘っちょろい感情は皆無だった。
マリは洞窟内でのトドメを引きずっているのか、唇を噛み締めたまま一言も発さない。だが、その瞳から迷いは消えていた。それが俺の「投資」に対する、一番の配当だ。
ギルドの扉を開けると、安酒の臭いと無遠慮な視線が突き刺さる。中央のテーブルでは、ガロンが鼻で笑いながら待ち構えていた。
「おいおい、戻ってきたのか? 生きて帰るなんて珍しいこともあるもんだな」
ガロンの言葉に、周囲の冒険者たちから驚きの言葉が、漏れる。
「おいギルマス、そいつら死体すら残らねぇと思ってたぜ」
「ガキ二人でゴブリンの群れなんて、自殺志願者かよ」
驚愕の波が広がる中、ガロンの視線がマリに突き刺さる。獲物を狙う野獣の眼差しだ。
俺は表情一つ変えず、カウンターへと歩み寄った。
受付嬢が怯えたように俺たちを見つめる。その震える手元を無視し、俺は背嚢から指揮役の首を放り投げた。
ゴトリ、とカウンターに乾いた音が響く。
「……ひっ!?」
受付嬢が短く悲鳴を上げ、椅子ごと後退った。カウンターに転がったのは、紛れもないゴブリン・リーダーの首。それも、断面が抉り取られたような、執拗な殺意を感じさせる斬り口だ。
「依頼達成だ。……それと、これはボーナスとして受け取ってくれ」
俺はマリを前に突き出した。
「今回のゴブリンの最後の一撃は、こいつが決めた。俺が手を下す必要はなかったからな」
ギルド内から笑い声が消えた。
ガロンの表情から余裕が剥がれ落ち、周囲の冒険者たちがごくりと唾を呑む音が聞こえる。
「……ガキに殺させたのか? あの指揮役を?」
「ああ。俺の『相棒』として相応しいか試したんだ」
俺はガロンの首元に、そっと指先を添えた。
ただの指先。だが、ガロンの体は石像のように硬直した。
「ガロン。お前は俺たちを『子供』だと侮っていたな。だが、見ての通りだ。俺たちの手には、すでに人間を殺すためのタコができている。お前が俺たちをどう評価しようと勝手だが――次に無駄な干渉をしてくるなら、お前もこのゴブリンと同じ『処理対象』になる」
静寂。ギルドの空気が物理的な重圧を伴って凍りつく。
「……て、手伝いが必要なら、いつでも言ってくださいね……」
受付嬢の震える声だけが、虚しく響いた。
ガロンは俺の冷徹な眼差しに気圧され、喉を鳴らして一歩後退った。俺はそんな奴には目もくれず、背を向ける。
「行くぞ、マリ。……次の仕事を探す」
俺たちはギルドの喧騒を後にした。
夕闇の町を歩きながら、ふと空を見上げる。
あいつ――最愛の嫁に首を刎ねられたあの日、俺は確かに死んだ。 だが、今の俺は、あの日以上の「化け物」に成り果てている。
これでいい。
感情を殺し、利益を計算し、不要な人間を排除し続ける。
いつか、あいつを再び見つけ出した時、俺は人間としてではなく、もっと合理的な「死神」として再会できるはずだ。
隣を歩くマリの歩調が、俺と完全に同期している。
俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ。
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