事務処理的殲滅
11話です。少しずつ展開が動いていきます。
その日の午後――
俺たちは、旧街道の洞窟に来ていた。
その中は比較的、単純な造りだ――
ゴブリン達は、俺が予期していた以上に組織化されていた。
巣の入口を塞ぐ哨戒ゴブリン、奥で待機する予備戦力、そして指揮を執る一頭の個体。これは偶然ではない。誰かが意図的に、この群れに規律を刷り込んでいる。
「お兄ちゃん、あそこ……」
マリが震える指で奥を指す。指揮役のゴブリンが、特有の鳴き声を響かせると、突撃隊が壁の隙間からこちらへとなだれ込んできた。
正面からやり合えば、数で押される。だが、この洞窟は「脆弱な構造」をしている。
「……マリ。あの柱の根元を見てろ」
俺は剣を振るうのではなく、洞窟の壁に打ち込まれていた鉄杭を指で弾いた。
文官時代、城の増改築時に学んだ「構造力学」の知識。天井を支える支柱の配置、土質の脆さ。この洞窟は、一点に衝撃を与えれば、連鎖的に崩落するようにできている。
俺はあえて、ゴブリンたちが最も密集するタイミングを待った。
奴らが俺たちの間合いに入った瞬間――俺は腰に下げていた小石を、全速力で支柱の隙間へと投げ込んだ。
ゴキィッ、という異音。
次の瞬間、天井が重力に従って牙を剥いた。
突撃してきた十数頭のゴブリンが、頭上から降り注ぐ岩塊に押し潰される。悲鳴を上げる間もなく、彼らはただの肉のペーストと化した。
「……計算通りだ」
俺は舞い上がる土煙の中、眉一つ動かさず呟く。
他の冒険者なら、ここで剣を振るって息を切らしているはずだ。だが俺にとっては、ただの「不要なゴミを廃棄した」に過ぎない。
「行くぞ、マリ。……指揮役は、まだ生きている」
瓦礫を乗り越え、最深部へ向かう。
そこには、片足を岩に挟まれ、身動きの取れなくなった指揮役のゴブリンがいた。そいつは俺の顔を見るなり、恐怖に引き攣った表情を浮かべる。
「お兄ちゃん、あいつ、どうするの?」
マリが短剣を握りしめたまま、俺の背後で怯えている。
「……マリ。お前に『相棒』としての権利を与えると言ったな」
俺は落ちていたゴブリンの錆びた剣を拾い、それをマリの手に握らせた。
その剣先は、生き延びようと暴れる指揮役の喉に向けられている。
「このゴブリンを殺せ。……これは、俺が守るための『コスト』じゃない。お前が生き残るための『投資』だ」
「で、でも……っ!」
「泣くな。殺さなければ、今度はこいつの仲間に殺される。どちらかを選べ」
俺の言葉は冷徹そのものだ。
だが、この状況で俺ができる「最高の教育」はこれしかない。
マリの手が震える。だが、俺はマリの背中に手を当て、その剣先を獲物の頸動脈へと押し付けた。
――ズブリ。
生温かい血が、マリの指を濡らす。
指揮役の断末魔が静まり、洞窟に静寂が訪れる。
返り血を浴び、呆然とするマリを背に、俺は冷ややかに周囲を見回した。
「……よし。これで、今回の依頼は完遂だ」
俺はマリの顔に付いた血を、乱暴に袖で拭う。
ガロンに見せつけるには十分な土産だ。俺たちの強さが「ただの子供」ではないことを、あいつに理解させるには十分だろう。
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