値踏みされる生贄
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俺は受付嬢を無視して、掲示板の依頼書に視線を走らせる。
『薬草の採取』、『害獣駆除』……どれも報酬が低く、手間ばかりがかかる。この街で、ある程度の資金と社会的な信用を短期間で得るには、効率が悪すぎる。
「……受付嬢。一番稼ぎのいい依頼を一つ出せ」
俺の言葉に、女は露骨に嫌な顔をした。
「あんたみたいな子供にできる仕事なんて……」
その時、カウンターの背後から影が差した。
ガロンだ。彼は俺の肩を背後から叩き、無造作に一枚の紙をカウンターへ放り投げた。
紙の端が、少し焦げている。
「ギルマス、それは……! この依頼はまだ……!」
受付嬢が悲鳴を上げた。ガロンはそれを鼻で笑う。
「丁度いいのがあるぜ。新人冒険者には、これくらいが丁度いい試練だろ?」
俺は紙に目を落とした。
『旧街道のゴブリンの巣、制圧』。
報酬は金貨五枚。この街の相場からすれば、破格の金額だ。だが、記載された場所には、赤いインクで大きくバツ印がつけられている。
「……これは?」
「ゴブリンどもが何者かに操られているらしくてな。先日向かったDランクのパーティーが、二人帰ってこなかった。普通の巣じゃねぇ。手練れが食い殺されるような場所だ」
ガロンは俺の目を覗き込み、ニヤリと口角を上げた。
「俺は、お前がただの『怒れる子供』なのか、それとも『この街で生き残れるだけの才(毒)』を持った化物なのか……それを確かめたい。……ビビって断るか? それとも、妹を食い殺されに行くか?」
その問いは、明らかに罠だ。
ここで拒絶すれば「小心者」としてギルド内での評価は底辺に落ちる。かといって安請け合いすれば、本当に死ぬ。
俺は心の中で、瞬時に計算を弾き出す。
この男は俺を殺したいのではない。俺という「計算できない変数」が、自分の支配下にあるこのギルドにとって「脅威か、あるいは最強の駒か」を見極めようとしている。
俺はマリの方を振り返る。
彼女は不安げに俺を見上げている。俺はあえて、彼女の頭を優しく撫でた。
(……演技ではない。今、マリをここで置いていけば、この街の連中に何をされるかわからない。駒を失うわけにはいかない)
「……受ける」
俺の即答に、ガロンの表情がわずかに驚きに染まった。
「……死んでも知らねぇぞ。それでもいいのか?」
「ああ。……そのゴブリンの巣、俺が全滅させてやる」
俺は紙を手に取った。
ゴブリン。あのリリアナが討伐の対象としていた、最弱にして集団で牙を剥く汚らわしい魔物。
それを操る何者かがいるのなら、それは俺の復讐のヒントになるかもしれない。
「マリ。行くぞ」
「うん、お兄ちゃん」
受付嬢の信じられないという視線を背に、俺はギルドを後にする。
ガロンという男の背中を見送ることはしなかった。
奴に認めてもらう必要はない。俺はただ、俺の目的のために、この「毒」を食い尽くすだけだ。
……待っていろ、ゴブリン。
俺は、お前たちをただ殺すのではない。俺の復讐の肥やしとして、徹底的に利用してやる。
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