↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生なんて!〜天使たちの楽園には、誰にも言えない秘密がある〜  作者: 与太猫
二章「世界の秘密」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/23

第19話「警察に行けばいい」

 差し出された手。この手を取らなかったらきっと後悔する。

 私は手を伸ばして、


「モカ!! 危ない!」


 ヒツジの絶叫に、びくりと手が止まる。


「よォ、俺様の陣地に潜り込むとはいい度胸だなァ!!」


 やかましくてざらつく声が響き渡る。思わず固まった。

 クロエの後ろには、フック車掌が立っている。鉤爪を銀色に光らせ、クロエの背後から覗き込んできた。

 こわい。シンプルに顔が怖い。私は数歩後ろに下がる。

 ヒツジがフック車掌の脇腹に突っ込んできた。


「このっ……! 俺の家族を返せよ!」

「っだぁぁ!! こんのガキ!!」

「やめてよ!」


 ヒツジはいとも容易く、鉤爪状の腕に捕獲されてしまう。 

 私も彼を取り返そうと足を踏み出す。しかし、クロエが立ち塞がった。

 フック車掌はヒツジをまじまじと見つめる。


「オメェ、長いことここに居るガキだな」

「そうだよッ! お前が皆を誘拐しようとする姿も何回も見た!」

「へっへ……誘拐はしたが、その後強制したことは一度もねぇさ」


 誘拐してる自覚はあるらしい。

 低く嘲笑う声と共に、どさりと音がした。いて、と声がする。ヒツジは傷付けられるでも無く、地に落とされていた。

 眉を跳ね上げた車掌は、クロエに向き直る。


「クロエ、勧誘なんて姑息なマネはやめとけ。俺様にゃ分かる、そのガキにはまだ”迷い”があるな」

「フック、この子達はわたしの家族で仲間だ。真実を伝えるのはダメなのか?」

「いーや、ガキ共には知る権利がある。ただ俺様は、強制されんのが死ぬほど嫌いなのさ」


 にたにたと笑う口元から、ちらりと舌先が覗いた。邪悪な仕草にぞくりと背筋が粟立つ。ただ、言っていることは……ものすごくマトモに感じた。


「嬢ちゃん、この前見た新入りだな? 俺様はただガキ共を救おうとしてるだけだ。黒服のガキが邪魔するんで、上手く行ったことは少ねえ」

「……弱かったもんね。血が苦手なの?」

「んだとォ!? ちったぁ怖がれ!! 泣く子も黙るフック車掌様だぞ!!」

「で、何? 誘拐しに来たんじゃないなら何か用?」

「オウオウ、勝ち気だな! 嫌いじゃねえぞ! いいぜ、少しだけ教えてやる」


 フック車掌はヒゲを撫でながら口角を釣り上げた。上機嫌に語る口は止まらない。


「ピーターの野郎……ガキ共にはゼロって呼ばれてたか。転生なんて嘘っぱち言いやがって、お前らを騙してる。それはもう分かってるみてぇだな?」

「……まあ、そうかも」

「話が早ェ。俺様がやってんのは慈善活動さ。ガキ共を『現実』に帰してやってんだよ。汽車が繋がってる終点駅、現実と異世界の境界線が薄くなってる場所だ。そこにガキ共を放り込む」

「…………」


 ヒツジが驚愕に目を見開いて、フック車掌を見上げてる。私も恐らく同じ顔をしているだろう。

 転生じゃない、現実に帰れる。


「誘拐して、ピーターの所業と俺様とヤツの因縁について教えてやってんのさ。それが全ての真実だ」

「じゃあ……アンタについて行けば、私は……」

「俺様が知る全てを教えてやろう」


 こんなの、着いて行かないわけがない。私は慌てて手を伸ばそうとして、


「待って、モカ! おかしいよ!」


 ヒツジの鶴の一声に止められた。彼は幼い眸をきつく細めて、フック車掌を睨み付けている。


「誘拐されて、現実に戻った子たちは? どこに行ったの? 戻ってきて俺らを助けてくれたことなんて一度もない! 何かこの話、おかしいよ!」


 私の視界が揺らいだ。

 正論だった。皆仲が良い。もしゼロが私たちを騙しているのが分かっているなら、現実に帰った子たちは。私だったら、見捨てない。見捨てたくない。どうにかして助けに戻る。


「んなモン帰って幸せに暮らしてんだろ。行きはよいよい帰りは怖いってか、慈善活動に文句つけんなよ」


 フック車掌は大袈裟に肩を竦めて飄々としている。

 この男、思った以上に雑なようだ。現実に帰った子たちのその後なんて、本当に気にしていないようだった。

 ヒツジはきゅっと眉を寄せて必死に訴える。


「クロ! ダメだよ、こいつ絶対危ないって!」

「クロじゃない、クロエ。わたしはみんなを見捨てる気はない。現実に行けるなら、帰る方法だってきっとある。作戦だって練ってる」

「作戦……?」

「現実に帰ったら、まず警察に行く」


 いや、うん……そうか。

 クロエという子も、聡明そうな顔をしてわりとガバガバなことが分かった。

 判断に迷った私は、結局頭を横に振る。


「……ごめん、聞きたいけど……怪しいから着いて行けない」

「フン、案外腰抜けだな。帰るぞ、クロエ。警察に駆け込む計画を練るんだろ?」

「……ああ、そうする。じゃあな、2人とも」


 肩に掛けたコートを翻して、フック車掌は颯爽と背を向ける。クロエは後に続いて駆けて行った。

 ふと男が振り返る。その顔一杯に、悪い笑みを湛えて。


「次の誘拐は10日後、汽車の出発はその次の日。俺様は宣言した事しかやらねえ主義だ。興味があるなら誘拐されに来な」


 低く耳障りな笑い声を残して、男と少女はその場を離れた。

 私たちは、冷たい洞窟に取り残されていた。抱えきれない謎だけを背負わされて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。