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転生なんて!〜天使たちの楽園には、誰にも言えない秘密がある〜  作者: 与太猫
二章「世界の秘密」

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16話「知る権利」

 ピーターパン症候群。

 大人になりたくないなあってやつ? その程度しか知らない。それが何だって。


「ピーターパン症候群って何?」

「あんた達のことよ。早く帰してあげる」

「待って! 私たちそれを知らないの! ピーターパン症候群ってなに!?」


 ミラは怪訝そうに私たちを見ている。まるで地球が丸いのは常識、みたいな顔で。


「……何言ってんの?」

「あなたが何を言ってるの?」

「おかしなこと言わないでちょうだい、怖い子ね」

「俺も聞いたことある」


 すっと控えめに挙手する顔を見る。ヒツジも眉を顰めていた。丸みのある頬には小さな手のひらの痕を残していた。

 これは……私かミラか、どっちの話に疑問を持っている?


「大人になりたくないって思う……大人らしくない? なんか、そういうのじゃね。詳しくないけど」

「それ、それ!」


 私は思わず賛同の声を上げる。目の前の妖精は目を見開いた。そうして、痛ましそうに目を伏せる。


「どうして自分を卑下するの……」


 哀れみが滲む悲しそうな声が、暗い地下に響いた。

 この3人の中で、妖精だけが違う話をしている。それなのに、どうしてだろう。

 心臓が早鐘を打つ。まるで答えを探すように、ここに来てからの記憶が浮かんでは消えていく。息を呑んでいる間に、


「気が動転してるのね。分かってるわ、踏み込む方がどうかしてるんでしょう? あたしは心がある方の妖精だったから。きっとそのせいよ。早く元の場所に戻してあげる」

「待って、私はまだ聞きたいことが──」


 慌てて声を上げる。しかし、それは無駄だった。

 ミラはふわりと宙を舞う。虹色の羽根を揺らして、輝く粒子をまとわせる。光の粒は私たちを包んでいく。視界が瞬く間に白に染まっていく。

 襟首から背中が、ぐんっと何かに引っ張られた。半ば強引な手つきのように、身体が吸い込まれるような感覚に見舞われる。


「”ころす”とか”しぬ”とか、過激な言葉使っちゃダメよ」


 悪化させないでね。

 最後に、不安そうな声が聞こえた。


 目を瞬いた。

 広がるのは透き通るような青いラムネ色と、白い入道雲。ごちゃごちゃと法則を無視した白い建物。

 私たちは、もう広場に転がっていた。指先に温もりと気配が伝う。

 ヒツジが手を握っていた。

 隣を見ると、空を見上げる幼い横顔は険しい。複雑そうに眉を顰めている。私は言葉に迷う。それでも口を開きたかった。

 何か話でもしてなければ、正体不明の不安で押し潰されそうだった。


「……戻って、こられたね」

「うん。……感謝した方がいいかな?」

「多分ね」

「……俺たち騙されてたんだ。兄さんが……」


 ヒツジが途中で押しだまる。先ほどの妖精の言葉を気にしているようだ。言葉を選んだ結果、


「兄さんが……消されちゃった、理由を……知りたい。兄さんだけじゃない、他の、今までのみんなも。もしかして、あんな風にひどい目にあっていたとしたら、俺たちは……知らなきゃいけない気がする」


 言い換えるのに苦労していた。それでもひとつの結論に辿り着く。

 頷いて私は立ち上がる。


「私も。知りたい、知る権利があると思う」

「…………」


 一拍、沈黙が訪れる。


「……よし、そうこなくっちゃ! らしくなかったわ!」

「ヒツジ?」

「こーんなに可愛い味方がいるのに落ち込んでらんねーや。謎に迫るんだし、仲間はひとりでも多くなきゃね!」


 また変なこと言ってる。

 頬をぱんぱんと叩いて、ヒツジが声を上げた。さっきあんなことがあったのに、眉を下げて笑っている。頬に残る、涙の跡だけは正直だった。

 手を貸すと、彼は立ち上がった。


「みんなにも知らせなきゃ……でも全部知ってからの方がいいよね」

「そーだね。ちょっとの間だけ2人の秘密にしとこーぜ!」

「……そうしよう、混乱させちゃう」

「んー……でも、これからどうしよっか。もう一回病院に行ってみる?」

「アホか。さっきの今だよ」


 話している最中に、遠くからこつこつと軽い靴音が響く。さっきの地下の出来事が頭を過ぎる。

 すぐに私たちは口を閉じた。

 後ろを振り返ると、白衣の少女が低い階段を降りてくる。黒いセーラー服がちらつくだけで、緊張が走る。

 この人もピーターパン。つまり、ゼロ側の人間の可能性がある。


「2人とも何してんの? ちょっとさぁ、ヒツジ〜。今日が何の日かモカに教えてあげなかったの?」


 ミヤがじと、と目を細めて私たちを見下ろしていた。

 ヒツジはきょとんとしている。首を傾げて、最後にぽんと手を打った。


「そうだ! 明日の健康診断の説明!」

「健康診断……?」

「そうよぉ、毎月一回あるの。ダメでしょ、時間守んなきゃ」


 健康診断。

 ……そうか。病院自体は、いつだって呼び鈴で呼べば入れる程度の場所。警戒しなくたって、自然に病院に入れる方法はいくらでもある。

 さっきの今だ。全然胸のざわつきは収まっていない。でも、これはチャンスかもしれない。

 その健康診断だって、きな臭いとしか思えない。だったら逆に利用できないだろうか。

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