元勇者一行の雑用係は見た
何なのだろうか、あの甘い雰囲気の騎士は。
勇者一行の自称雑用係は知っている。
そもそも、本人は気付いていないようだったが、のろけるくらいには会ったこともないという妻を気に入っていた。魔王討伐の旅の途中、緊迫した状況だったため、差し入れ的な贈り物へのお返しが出来ていないことを気にしていたことも知っている。その後の王家の後継者争いに半分巻き込まれ、一挙手一投足が注目されてしまい、また贈り物をする機会を失ってしまった。
それくらい気にせず贈ればいいのに。
そう言ったのはコニー・ゲルプ・・・勇者一行の魔法師だったが、初めての贈り物を自分で選べないのは嫌だと、頑固な言い訳をしていた。
その鬱憤を晴らすかのように、王都へ招待したあと、装飾品はほとんど自分で選んで準備していた。ドレスのデザインもいくつかは選んでいた。
淡々と、やることをやっているという雰囲気だったが、一緒に旅をして寝食共にした仲であるハラグは気付いてしまった。
この騎士、浮かれている、と。
実際に、噂の奥様は期待を裏切らなかった。
少々乗り物酔いはしてしまったのは仕方がない。
気遣いができ、謙虚で愛らしい。
問題は、なかなか邸に顔を出さない旦那様だった。
王都の社交会にでれば、いくら既婚者ということがわかっても、言い寄ってくる男性は多いだろう。
今のうちに、その無駄に美しい容姿でも見せておけば嫁を引き留める抑止力になるのではないかとハラグは考えていたのである。
ハラグが、現在の雇い主を見たのは祭りに行った次の日の朝だった。日課の鍛錬の後らしく、夜勤のメイドに聞いた客室に入ると、恐らく自分の魔法で温めたお湯で身体を拭いているところだった。旅の間、寝食共にしてきて今更お互い気を遣うことはない。
「おかえりなさいませ、ダンナサマ。お着替えお持ちしました」
「すまない、ハラグ。それにしても、まさか君がくると思っていなかった。」
ハラグは主にアリシア付きを命じられていた。
別に来たくて来たわけではない。たまたま着替えの用を頼まれたメイドが新人で、この家の主人の半裸への耐性がなかったために代わりを頼まれただけだ。
せめて、毛髪の量が心配だったり、腹回りが気になったりしたならば新人メイドも冷静でいられただろう。
「・・・はげたらいいのに」
「え?」
「いえなんでもありません。」
ハラグは身支度の手伝いをすると、さっさと部屋を後にした。その身支度の世話さえも本来必要としないのも知っていたが、いつもよりも少しだけ良いものを身につけさせたのは仲間としての小さな後押しのつもりだった。
アリシアの部屋に着くと、こちらも身支度しているところだった。衣装室からはいくつかのドレスを持ってきて、昨日から並べてある。どうやら、既に夫との初対面を果たしているらしかった。
様々な種類があったはずだが、アリシアが選んだのは露出のない首元までしまったデザインのものだ。色合いも落ち着いた色が並んでいる。ハラグとしては物足りない。
こんなにいい素材を持っているのにもったいない。
「アリシア様よろしければ私にお任せいただけませんか」
ハラグがそういうと、少し悩んでからアリシアは了承した。落ち着いた色味はそのままに、胸元はあえて透けて見えるデザインのものに変更した。生肌はあえて見せない。
波打つ桃色がかった金髪は結ばず、大きすぎない髪飾りをつけた。瞳と同じ赤紫色のペンダントをつけて、完成である。
人間、隠されたものほど見たくなるものである。
「朝食の席に派手すぎないかしら」
頬紅がいらないくらい顔を真っ赤にしたアリシアは鏡を見ながら声を震わせている。
「派手ではないと思います。それに、邸の中くらいは好きな服で出歩いたところで誰も咎めませんよ」
しかも、結婚したとはいえ顔を合わせたのが昨日。実質、蜜月中に相手の目を引くことをするのは罪に問われないだろう。横でソフィーが大きく頷いている。どうやら同意見らしい。
その後の朝食での会話は、なんともむず痒いものだった。なんというか、「いいから、おまえらもう付き合っちゃえよ」、というようななんとも甘酸っぱい雰囲気である。
「狩猟会と夜会も気合入れないと」
ハラグは一緒に魔王討伐を目指していたときから、この男のどこか自分の未来を他人任せにしているところが嫌いだった。このまま会わないという手段がありながら、顔を合わせたことがない妻に会うということは自分で決めたのだ。
隣にいたアリシアの専属メイドであるソフィーも気合十分という顔をしている。
主人たちの様子をこっそり覗いていた二人は揃って、衣装室へと急いだ。




