英雄騎士と妻
オリヴァーが想像していたよりも初めてあった妻は小さかった。
用意されたローブは大きめだったのか、それに包まれていると大人の服を借りた子供のようだった。
寒そうだと思い、肩掛けをかぶせると彼女は振り返り、驚いたように見上げた。
そのあとはあっさりと言葉を交わしその場を後にした。罵られてもおかしくないはずだが、労るような言葉に安堵した。
朝、いつものように鍛錬をしてから、朝食へと向かう。食堂のテーブルにはまだ妻の姿はない。
席につこうという時、扉が開いた。
妻・・・アリシアの姿がそこにあった。
金だとばかり思っていた髪は薄く桃色がかっており、赤紫色の瞳は宝石のようだ。ことあるごとに義父ローザ伯爵に娘の自慢を聞かされていたオリヴァーとしては驚きよりも納得といった心境である。
「おはようアリシア」
自然と頬が緩むのを感じる。少し足早に近付いてその手を取った。
「おはようございます。旦那様」
アリシアは驚いたように大きな目をさらに見開いて、オリヴァーを見あげる。声だけは冷静を保とうとしているようだが、残念ながら失敗したことにアリシアも気づいてあからさまに顔を赤くした。
エスコートされるがまま食卓についたアリシアは、オリヴァーの顔をまともに見ることができない。
「アリシア。ずっと手紙や贈り物をありがとう。やっと会えて嬉しいよ。領地経営も上手くやってくれているときいている」
「執事のフォンゾが丁寧に教えてくれました。領民も温かく協力してくれます」
山の国境、海の国境があるシュヴァルツの領地は広大ではないが重要な土地だ。だからこそ代々優秀な騎士を輩出しているシュヴァルツ家が選ばれ、爵位も侯爵を賜っている。
長年の仕組みづくりの賜物だろう。領地軍は船での戦いも陸での戦いもお手の物で、よく統制がとれていた。
アリシアは産業から商業への流れを整え、領地軍へ入隊することが多いため、男手が少ない中での生活基盤を整えた。そのおかげで、魔物の討伐や魔物から採取していた物がなくなって、報酬が少なくなっても、大きなダメージにはならなくてすんだのだ。
何かあれば領地に帰らねばと身構えていたオリヴァーも報告を受ける度にどうにかなっているのを見て安心しきっていた。
愚かなことをしたと反省していたが、今となってはどうにもならない。
「本当は、本来の領主である私がどうにかしなければならなかったんだ。」
「・・・どうしてですか?」
そこで顔をあげて初めてアリシアと目が合った。
先程とはうってかわり、心配そうな表情でオリヴァーを見つめている。
「旦那様は旦那様しかできないことを賢明にされているのだと、私はそう思っていました。」
赤紫色の瞳が真っ直ぐにむけられ、オリヴァーは目を瞬かせた。あの溜め息で始まるツバメとの話にもどうして私がといった内容は出てこなかったことを思い出す。
「ですから、私も私ができる最大限のことをしようと動いてきたのです。いつか受け渡すときに苦労しないように」
用意された席が向かい合わせで良かった。
もしも隣だったら、引き寄せて抱きしめてきっと困らせていただろう。自分自身を丸ごと肯定されたような気がした。それがこんなに嬉しいことだとは思いもよらなかった。
「貴女は、真っ直ぐな言葉を選ぶのだな」
「それは・・・私が旦那様に会った時にお伝えしたいと思っていた言葉だからです」
途切れることのない手紙のやりとり。
彼女の言葉にどれだけ癒されていたのか思い知る。
呼び寄せた時には何があっても彼女のできる限りの願いを叶えようの思っていた。
それなのに、実際に話すとそれは難しいのではないかと感じる。
この妻を、手放すことができるのだろうか。
いつもよりもゆっくりと朝の時間を過ごしながら、見慣れない妻の姿を会話をしながらゆっくりと観察していた。




