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秋祭りの精霊たち

王都の秋祭りはシュヴァルツの領地より遅い。

そもそも、秋らしくなるのも遅い。領地では初雪がふり、秋から冬へと移り変わるところだ。

山に囲まれた王都の秋祭りは街をあげての3日間と、貴族の狩猟会と茶会、王城での夜会で締めくくられる。

秋の社交シーズンに参加するということはここに参加することを意味する。街をあげての3日間は参加しなくても特に問題はないが、王都を見て回るには丁度良い機会だとアリシアは2日目に街に繰り出すことになった。

中心の会場は中央広場。

そこに行けば旅人でもお祭りに溶け込める簡易的な衣装もそろい、仮面もさまざまな種類が売られている。

通りも多く露店が並び賑やかだ。


案内役にハラグ、お供にソフィー、それに護衛が一人。アリシア、ハラグ、ソフィーは仮装して、店を見て回ることにした。仮面をつけ、精霊に扮するのがこの祭りの正装なのだとハラグが言った通り、多くの人が精霊に扮していた。

中央広場の勇者一行の像の周りには、勇者一行に扮する者までいる。精霊ではないが、その人気ぶりを知るには十分だった。露店にも勇者一行の姿絵などが並んでいる。アリシアの目は自然と夫の姿にいく。王都に着て数日経っても、まだ夫には会えていない。

「そちら、買いますか?」

ソフィーが声をかけると、アリシアは真っ赤になりながら頷いた。

店から離れてから、ハラグがポツリとつぶやく。

「似ているようで、似ていないと思いますよ」

その時、遠くからざわめきが迫ってくる。鼓笛隊の演奏もかき消されそうなほどの歓声だ。

「奥様、きましたよ。あの一番目立つ黒髪の騎士です」

王太子が乗っている馬車の近く。飾り立てられた黒い馬に背の高い黒髪の騎士が乗っていた。服装は王太子の近衛隊の正装だが、祭りらしく顔の半分を覆う仮面をつけていた。仮面越しでも整った顔立ちはよくわかり、黒髪の王太子付きの騎士のことは知れ渡っているため、正体を隠すのには役に経っていない。

ハラグのおかげで、パレードを最前列で見ていたアリシアは、まるで関わりがない別の世界を見ているかのように感じていた。

「いきましょうか。」

アリシアは出来るだけ明るい声を出すように心掛けて笑う。きっと、もうすぐ夫ではなくなる人は、自分にはもったいないような立派な人に見えた。ローザ家の領地に戻っても父も兄も喜んで迎え入れてくれるだろう。

政略結婚であるという時点で、愛を求めようとも始めから思ってはいなかった。ただ、シュヴァルツ家の王国の盾としての役目を補うために、ローザ家がいろいろな面で丁度良かった。そして王命による結婚は断ることはできない。それは、オリヴァーも同じだったはずだ。


パレードから離れたあとはお土産購入に行く。

邸のお土産に沢山の飴玉とクッキーを買った。

本当はもっと楽しみたかったが、その気にはなれなかった。


結局食べ歩きもしないまま帰宅した。

ハラグやソフィーに申し訳なく思い、使用人たち夕飯をいつもより豪華にするようにお願いして、自室に戻る。夕飯も簡単なものにしてもらい、自室で食べることにした。

豪華に整えられた自室はもったいないように感じていた。シュヴァルツ家からの資金ではなく、この邸は基本的にオリヴァーの王城務めの給金から今のところ賄われているらしいと聞くと尚更そう思えた。


寝支度をして、ソフィーも下がってからアリシアは寝室からのバルコニーに出て、夜の庭園を見下ろしていた。

月が明るく美しい。

風は秋らしく冷たい。

と、後ろから肩掛けが掛けられる。驚いて振り向くと壁があった。見上げると黒髪に黒い瞳の男と目があった。突然のことすぎて言葉がでない。

オリヴァーがそこにいた。

「またせて、申し訳なかった。花嫁殿」

見覚えのある服はパレードで見た制服の騎士服。正装用らしく、沢山の勲章がついていて重たそうだ。仕事が終わってようやく抜け出してこれたということだろうか。月明りに照らされた表情には疲れと安堵が見えた。そこに緊張も恥ずかしさもないのが見て取れて、少しだけ意地悪したくなる。

「待っておりませんわ、旦那様。お役目お疲れ様でございました。寝衣で申し訳ございません。」

ローブを羽織ってはいるが、初めてが寝衣というのは恥ずかしい。あまりに会わないので、夫婦の寝室であることを忘れていた。

「私もまだ身体を清めていないし、寝支度も整っていないから先に寝てくれて構わない。今日はもう遅いから、明日の朝食でまた会おう。」

そう言って、この邸の主はあっさり寝室を後にした。


胸にのこったのは寂しさだった。

心待ちにしていたわけではない。侯爵夫人でなくなれば愛着のあるシュヴァルツの領地からも離れなければならないし、良くしてくれた人々ともお別れすることになる。そういう意味での寂しさだ。


アリシアは、しばらく夫が去っていった扉を見つめていた。それから、ベッドに潜り込んで目を閉じると、気づいたときには朝日が差し込んでいた。


王都に来て初めてこんなに深く眠ったと気付いたのは、着替えをしている途中だった。

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