嫌疑Ⅴ
小窓の外がぼんやりと明るくなり始めた。
結局一晩を牢で明かしてしまったのか。
何も悪いことはしていないというのにこんな仕打ちを受けるとは、いったいどう落とし前をつけてくれるのか?
眠くてもこの環境が睡眠を妨げ疲労だけが溜まっていく。
ぼんやりする頭にガチャリという音が響いた。
「出ろ」
兵士が牢の扉を開けて無機質にそう言ってきた。
思ったよりは早く解放された。
それでも不当に拘束されたのだ。
良い気分ではない。
というより早く温かい場所で眠りたかった。
兵士に案内されるまま着いていくと応接間のような場所に通された。
まだ自由にはしてもらえないのか。
中には木製のテーブルとソファだけがありそこにあのホフマンという男とエリナが向かい合って座っていた。
「アルベルトさん!無事でしたか?」
疲労しきった姿にエリナが心配して声をかけてくれた。
それに首を縦に振るだけで返事をして兵士に促されるままエリナの隣に座った。
まず切り出したのはホフマンだった。
「アルベルト殿。貴方に少し聞きたいことがありましてな。正直に答えていただき問題が無ければすぐに釈放しましょう。」
まるでこちらに問題があるような言い方に腹が立ったが素直に従った方が早く済みそうだ。
「ではまず貴方はどちらからフリーベルに?何の目的で?」
「西の森を抜けた先にあるクシルという村から仕事を探しにフリーベルに来ました」
「なるほどフリーベルにはいつ着きましたか?」
「えーと、二日…いや、日付的には三日前か。一日目は適当な宿に泊まって二日目はエリナさんの家の風精館に泊まりました。」
「ふむ…それで仕事は見つかりましたか?」
「ええ、仕事と言えるかは微妙ですが……」
面倒な質問が来てしまった。
魔物退治はやっているからといって罰せられる事はないが注意ぐらいは受けることになる。
「魔物退治ですね……本来は厳重に注意しなくてはなりませんが、今回はまあいいでしょう。それで魔物退治で何かありましたか?」
なるほど、エリナの伝言を確かめているようだ。
とても眠いが正確に伝えよう。
「はい、昨日俺は土竜のコロニーを見つけて内部に入りました。」
ホフマンは一言一句逃すまいと真剣な眼差しで話に聞き入っている。
そう睨まれては話しづらいのだが。
「入ってみるとコロニーで土竜に遭遇することはなく居住区画を覗いてみたら土竜が死んでいました」
「どのように死んでいましたか?」
「大きな牙の痕があったので噛み殺されたのではないかと。その後何があったのか調べるために奥に進んだのですが、そこで蝙蝠型の中位の魔物に遭遇しました。」
ホフマンは「中位の魔物」という言葉にも特に反応せず相変わらず話を聞くだけだ。
「その魔物に見つかって逃げ出したのですが居住区画の辺りで追い付かれました。その時魔物は『計画』がどうのと言ってましたが詳しくは分かりません。」
「他に魔物はいなかったのですか?」
「はい、その魔物だけでした。」の魔物には勝てそうになかったので催涙弾を使って逃げました。逃げた通路の先は西の森に繋がっていてそこで今度はゴブリンの集団を見かけました。」
「規模は?」
「大型のものが一匹と小型のものが四匹でした。そいつらは拠点をどこかに移動しようとしてるようで、明日…いや、今日どこかを襲撃する予定だと言ってました。」
そこでホフマンは話を止めてフンと溜め息を吐いた。
「一人で乗りきるには随分と大変そうですな」
「いや、まあ…はい」
そこでエリナが堪らずこちらに向いた。
「アルベルトさん、もう隠さなくていいです!ホフマンさんにはもうこのことは話したので!」
驚いた。
何があったのかは知らないがもう秘密を話してしまっているらしい。
「そうだったんですか……魔物退治にはエリナさんと行きました」
「そうですか。エリナさんがどうしてもと言うので同席を許可しましたが失敗でしたね。口出しなしで言ってもらえればベストだったのですが仕方ありません。一応言質は取れましたしこれから私は土竜のコロニーへ調査に行きます。詳しい場所を教えていただけますね?混乱を避けるために避難指示などは出せませんがもしもの場合の対策は部下にマルロ卿と協議させましょう。アルベルト殿は一旦釈放します。コロニーを調べて異常が確認され次第正式に釈放ですのでこの間に逃げたりしませんようにお願いします。」
どうにか仮釈放となった。
これで危機が去ったわけではないのだが疲れた頭は睡眠のことでいっぱいだった―――




