嫌疑
森を抜けフリーベルに戻る頃には空がオレンジに染まっていた。
魔物の不穏な動きを報せるべく町の中心にあるマルロ卿の屋敷に向かった。
「エリナさんは戻って休んでください。報告はやっておきます。」
エリナの魔物退治を隠すためには一人で報告しなければならない。
屋敷に着くとマルロ卿は昨日と同じように庭の手入れをしていた。
「止まれ!魔物がなぜこんな町中に?」
突然声をかけてきたのは巡回中の警備兵だった。
「いや、俺は人間です!」
「何を言うか?そんなボロボロの汚い格好で!それにどう見ても魔物の顔じゃないか!とにかく詰所まで来てもらうぞ!」
屋敷を目前にしてこれはまずい。
確かに今の格好は散々な目に遭って服は所々破れて泥だらけだ。
「待ってください!マルロ卿に報せないといけないことが!魔物の襲撃が……」
「襲撃を企んでいただと!?尚更連れて行かねばな」
「そうじゃないんです!話を!」
「話ならたっぷり聞いてやる!」
一向に話を聞いてくれない兵士に強引に屋敷から離され連行されてしまった。
連れて来られたのは町の端にある兵士詰所の牢屋だった。
「そこで待っていろ。隊長が来たら取り調べをする。」
それだけ言って兵士は去ってしまった。
なんてことだ。
まさかこんなに大事になるとは。
今まではエリナと行動を共にしていたから見逃されていたのだろう。
牢の中はかび臭く冷たい風が吹き抜けていた。
鉄格子のされた小窓から見える町は既に日が沈み人の姿もなく静まり返っていた。
冷たい地べたに寝転んでいると足音が近づいて来た。
「ふむ、お前が町中に現れた魔物か?」
振り返ると口髭を生やした壮年の男が牢の前に立っていた。
「だから魔物じゃないですって!」
その言葉に男は髭を撫でながら何か考えていた。
「確かに魔物にしては流暢な言葉ではあるが…おっとそうだ、私は王国軍フリーベル駐在部隊隊長のホフマンだ。西の襲撃騒ぎもあるのでな。取り調べをして関係がないと分かるまではここから出すわけにはいかん。」
さっきの兵士よりは話が通じるのかと思ったがこちらも頭が固そうだ。
「すぐにでも取り調べを始めたい所だが今は夜間警備態勢を強化しているのでな。明日まではそこにいてもらう。」
「大事な話があるんです!明日魔物の襲撃があるかもしれないんです!」
「悪いが今の君の話は信用するに足りないのでな。それに警備を強化しているのだ。問題ないわい。」
こちらの話にはまともに取り合ってくれそうにない。
何を言っても無駄そうだ。
下手をするとここにいる間に襲撃が始まるかもしれない。
武器も取り上げられてしまったしそんなことになればどうにもならない。
こんな目に遭うなら意地でもクシル村に残って何と言われようとぐうたらしていればよかった。
両親が死んだら俺も死ぬことになっただろうが、それでもこんな冷たい牢にわけもわからずぶちこまれて魔物に殺されるよりはマシだったろう。
ホフマンの姿も消えてまた地べたに寝転んだ。
「寒い…」
アルベルトの声は虚しく響き心なしか寒さを助長させた―――




