竜の塚Ⅳ
土竜のコロニーの中は日差しのおかげか思っていたより暖かい空気で満ちていた。
「変ですね…」
周囲を見回したエリナは訝しげにそう言った。
「どうしました?」
「静かすぎます…今は土竜の行動時間ではありますけどそれでも少しはコロニーに残っているはずです……」
確かに多くの土竜が暮らしているにしてはどこにも住人の姿がない。
「そういえばここに来るまでの通路でも一匹も遭遇しなかったし……やっぱりおかしいです!」
不自然な静寂のせいかそれともエリナに影響されてか何か嫌な予感がした。
「ちょっと様子見てきます!」
そう言ってエリナは壁の巣穴の方へ走っていった。
「あ、待ってください」
こんな不気味な所に置いていかれるなんて堪ったものではない。
近くの穴から順に覗いていき一つの穴の前でエリナが立ち止まった。
「……酷い」
エリナは口に手を当て嫌悪の表情をしていた。
「何かありましたか?」
穴の中を覗くと惨殺された1mほどのモグラが横たわっていた。
「土竜です」
土竜の姿は想像していたより弱々しいものだった。
「これ見てください!何かに噛まれた痕です!」
エリナの指差す所を見ると大きな牙の痕が残っていた。
「土竜のコロニーが他の魔物に襲われる事ってほとんどないんです。それに捕食が目的じゃない……この近くに目的もなく虐殺をするような魔物は生息してないはず……」
どうやら何か異常事態に巻き込まれてしまったようだ。
すぐにでも帰りたいのだがエリナが死骸を調べ始めてしまった。
「あの…帰りません?何か嫌な予感がするんです……」
「そういう訳にはいきません。下手をするとフリーベルの安全も脅かすような奴がいるかもしれませんから。」
尚更帰りたかった。
「私はお婆ちゃんやマルロ卿やみんなの住んでるフリーベルを守りたいんです。でもアルベルトさんには関係のないことですから無理には巻き込めません。もしかしたら思っている以上に危険なことになるかもしれないですし。私は残るんでアルベルトさんは帰ってもいいです。」
「……俺も残ります……エリナさんを一人では残せません」
「アルベルトさん……」
一刻も早く帰りたかった……
だがそれは出来なかった………
こんな所一人で帰るには怖すぎる!!
「……ありがとうございます!一緒に何が起こったのか突き止めましょう!」
「はい!」
こうなったらどうにかして原因を調べて一緒に帰ってもらおう。
早く帰りたい一心で手掛かりを探していると穴の片隅に動物の糞のような物を見つけた。
「エリナさんこれは…?」
「何か見つかりましたか!?」
すぐにエリナが駆け寄りそれを調べだした。
「これは……」
怪訝な顔で糞を調べている。
素手で糞を触っていることに感心している場合ではない。
「土竜のでしょうか?」
関係ないものだったらどうしようかと不安になりながらエリナに聞いてみた。
「いえ……土竜は主に果実を食べたりしてて糞の中には消化しきれなかった種が残ります。でもこの糞はそれがありません。土竜以外の何かがいることは間違いありません。それに見てください。この糞はまだ柔らかいです。」
「それが…?」
「糞が柔らかいということは新しいということです。この糞の主はまだそう遠くへは行ってません。」
やはり穏やかな状況でないことは確かなようだが他に手掛かりはないだろうか?
「土竜を襲うのが目的でまだ近くにいる……でもここにはいない……」
アルベルトのその言葉にハッとしてエリナが駆け出した。
「アルベルトさん!ボスの所に行きましょう!もしかしたらまだいるかも!」
「え?ボスってどこに?」
「このコロニーの最奥です!あの他の通路より大きい通路がそれに繋がってます!」
最奥に続く通路へ走るエリナをアルベルトは追いかけていった―――




