危機の予感
最奥への通路には何匹もの土竜の屍が倒れていた。
「土竜はボスに忠実なんです。この子達もきっと…侵入者を止めようとして……」
走るエリナの顔は悲しげに歪んでいた。
「あ、あの…エリナさん…はあ……侵入者を見つけたら……どうするんですか?」
着いていくのに精一杯で息を切らしながらエリナに策を聞いてみた。
「姿を確かめます。私達で対処できそうならどうにかしますし無理そうなら町に戻ってマルロ卿に報せます。」
「でも……それじゃあエリナさんが魔物退治してるの……バレちゃうんじゃ?」
これまで守ってきた秘密だ。
そう簡単にバラせない。
「そんなこと言ってる場合じゃありません!」
エリナは真剣だ。
本当にフリーベルが好きなようだ。
「報告なら俺がしますよ!俺がここを見つけたことにしましょう!」
「アルベルトさん……本当にありがとうございます!」
これなら帰りもきっとエリナが守ってくれる。
それに町の危機を救うなんてお手柄だ。
走っていたエリナが立ち止まった。
どうやらボスのフロアが目前のようだ。
「あそこの幅が広くなってる所見えますか?ボスのフロアです。」
まだいるかもしれない侵入者を警戒して小声でエリナが伝えてきた。
壁づたいにそっと近づいて行くとパサパサと何かが動く音がした。
エリナが松明を少しずつフロアの入口に近づけて中の様子を覗いて見ると二つの影が見えてきた。
一つはぐったりと倒れもう一つはそこに乗っていた。
どちらも人間ぐらいのサイズだ。
「わっ!」
その時、奥の様子を見ようと乗り出したエリナが躓いて通路の中央に出てしまった。
「ンギギ…?」
上にいた影がこちらに気付いたようだ。
「マダイタノカ?」
その影は人外の声で片言の言葉を使っていた。
「やばっ!アルベルトさん逃げますよ!」
すぐに振り返ったエリナがアルベルトの手を取り元の道を走りだした。
「へ!?また走るんですか!?」
まだ走ってきた疲れが大分残っている。
「それしかないです!」
もう息が辛い……
「マテ!」
走りたくはないが仕方ない。
向こうも追ってきている。
土竜達の巣穴があるフロアにたどり着き入ってきた通路を目指した。
追ってきた影もこのフロアにすぐに追いついた。
「ニガサナイ」
影の主は驚くことに自分達を飛び越えて前に立ちはだかってきた。
「ニンゲン?ト、マモノ?」
目の前に立ち塞がるその姿は巨大な牙のある蝙蝠のような不気味なものだった。
「オイ、オマエ、マモノダロ?ソイツハ、ナンダ?」
どうやら魔物と勘違いされているらしい。
「俺は人間だ!一緒にするな!」
「ンギギ?フンイキモ、マモノノヨウダッタノダガ、チガッタカ?」
見た目のことを言われるのは慣れているが雰囲気のことまで言われるとは心外だ。
「ムウ…ホウッテオイテハ、ワレフォルサマノ、ケイカクニ、シショウガデルカ……」
魔物がブツブツと喋っている所にエリナが持っていた松明を投げつけた。
「ンギッ!」
魔物はそれを身体を反らすことで簡単に避けてしまった。
だがエリナの狙いはそこにあった。
魔物の注意が松明に逸れて体勢が崩れたその一瞬を突きナイフで斬りかかったのだ。
「ンギュ…」
その一撃は浅かった。
魔物の丸い腹からは赤黒い血が流れていたがダメージは少ない。
エリナのナイフではあの魔物を倒すには威力が足りなすぎた。
ニヤリと笑った魔物が大きな翼でエリナを勢いよく振り払った。
「クカカ…ソンナモノカ?」
吹き飛ばされ倒れ伏しているエリナに魔物は挑発した。
「そりゃぁぁぁ!!」
もう一度エリナが魔物に斬りかかるが今度は全く当たらない。
外れても一撃また一撃とエリナは何度も攻撃を続けた。
それをヒョイヒョイと避ける魔物の姿はどこか楽しんでいるようにも見えた。
素早い動きが強みのエリナが完全に手玉に取られていた。
「ドウシタ?アテラレナイノカ?」
「く……」
エリナはこの状況に焦っていた。
素早い連続突き。
軽快なステップで近づいてからの斬りつけ。
スライディングでのすれ違い様攻撃。
エリナの攻撃はどれも見事なものだが相手はそれ以上に強かった。
このまま続けても勝ち目はない。
疲労の色が見え始めたエリナは歯を食い縛り腰を入れてナイフを構えた。
「グギィ?」
余裕の表情を浮かべたまま魔物はそれを見て首を傾げた。
「これで……どうだぁぁぁ!!」
次の瞬間、力強く地面を蹴ったエリナは目にも留まらぬ速さで魔物に突進した。
「グガァァァァ!」
思わぬ速さの攻撃に回避が間に合わなかった魔物の胸にはエリナのナイフが根本まで刺さっていた。
その一撃は先程までのものとは違い目に見えて魔物にダメージを与えてた。
「オノレ、キサマァァァァ!」
怒り狂った魔物がエリナに牙を剥く。
絶体絶命だ。
「お、おりゃー!」
助けなければ。
次に殺られるのは自分だ。
それだけを考えてアルベルトは銅の剣を魔物に振りかざした。
だが技量のないアルベルトの攻撃は簡単に避けられてしまった。
「ギュゥゥゥ……ジャマヲシヤガッテ」
剣を避けた魔物の注意がこちらに向いた。
「オマエカラヤッテヤル!」
殺気に満ちた視線でこちらを捉えながら魔物は姿勢を下げ飛び掛かる準備をした。
なんてことだもうおしまいだ。
あんな牙で噛みつかれたらひとたまりもない。
諦めかけたその時エリナがポケットからボールのようなものを取り出し魔物に投げつけた。
投げた物は魔物にぶつかった途端弾け跳び中から黒い煙が噴出した。
「ウグ…!!ナンダコレハ!?」
突然の事に魔物が困惑している間にまたエリナはアルベルトの手を取り来た時とは別の通路に逃げ込んだ。
「ング…ニガシタカ」
エリナのおかげでひとまずはなんとかなったようだ―――




