竜の塚Ⅱ
見渡す限り広がる平原には動く影はどこにもなくただ草の臭いを運ぶ風だけが吹き付けている。
「何もいませんね」
早朝から出発してもう数時間経つが一向に魔物は現れない。
こうも見つからないものだとは思っていなかった。
退屈だし少し歩き疲れた。
「うかつに平原に出てくれば私達にやられるっていうことぐらい魔物だって分かってますからね」
対して慣れているからかエリナには疲れた様子は見られない。
「エリナさんタフですねぇ……」
「もう疲れちゃったんですか?このぐらい普通ですよ」
昨日はたまたま獲物を獲得できたが、探すだけでこんなにも疲れるものだとすると続けられるか不安になる。
「あ、見てください!アルベルトさんあそこです!」
エリナの指差す方向を見てみるが特に何も見当たらない。
表情には出ていないが魔物の幻覚が見えるほど疲れていたのだろうか?
「何もないですよ?休んだ方がいいんじゃ?」
「もう何言ってるんですか?あそこだけ土が盛り上がってるじゃないですか!」
言われてみれば確かに直径40cmぐらいの円形で10cmほどの高さの土の山が出来ている。
「はあ、まあ確かに…」
だから何だというのか?
「ほら行きますよ!」
「え?魔物を探すんじゃ?」
何があるのか知らないがついていくしかあるまい。
山の前まで来るとエリナはそこを掘り始めた。
「うん、けっこう新しいな」
真剣な表情で穴掘りをしているがどういうことなのかさっぱりだ。
しかしそれを聞くにしても邪魔をするようで聞きづらい。
「アルベルトさん、ここ当りっぽいですよ!」
「当り…ですか?」
嬉しそうにそんなことを言われても困ってしまうのだが。
「たぶんいますよ、ここ!」
「何がですか?」
「ドリュウです!」
「ドリュウ……竜!?」
竜と言えば誰もが知っている最上位の魔物だ。
巨大な身体は鋼鉄より硬い鱗により守られ普通の武器では傷一つつけられない。
鋭い爪は紙でも切るように人間を容易く切り裂く。
動きは巨体に似合わず俊敏でしなやか。
毒や炎を吐くものもいるらしい。
そんなものを倒せるのはお伽噺に出てくるような英雄ぐらいだ。
こんな町の近くの地下に竜がいるとは驚きだが今はそんなこと言ってる場合じゃない。
「逃げましょう!早くしないとヤバいですよ!」
「え?何言ってるんですか?せっかく獲物がいそうなんですから早く捕まえましょう!」
確かにエリナの実力はなかなかのものだが竜が相手では流石に無理だ。
「無理ですよ!竜になんて勝てるわけないですよ!」
もうエリナは放っておいて逃げてしまおうか?
どうせ昨日会ったばっかりの仲だ。
親切にはしてもらったが命には代えられない。
それに自分だけで逃げればエリナがいる分竜が足止めされるかもしれない。
「竜って……あ!」
やっと事の重大さに気付いたのかと思ったらエリナは笑いだしてしまった。
ついにおかしくなったのか?
やはり魔物肉なんて食べているから……
「あはははは…!りゅ、竜って!あっはははは!」
「何笑ってるんですか!?早く逃げますよ!!」
「大丈夫ですよ!アルベルトさん……ぷふふふ」
もう訳が分からない。
何が大丈夫なものか。
昔よく母さんが読んでくれた絵本でも勇者がボロボロになってようやく勝ったような相手だというのに。
「ドリュウって言うのはちょっと大きめのモグラのことですよ」
「え?モグラ?」
それを聞いてさっきまで騒いでいたのが恥ずかしくなってきた。
「まあ、角兎よりはちょっと強いですけど、そんなにすごい相手じゃないですから!」
エリナがそう言うのなら大した相手ではないのだろう。
「くっふふふ……アルベルトさんは面白いですね!」
魔物探しも疲れるがエリナに笑われるのも精神的に疲れる。
無心でエリナの土掘り手伝い気を紛らわすアルベルトであった―――




