秘密の共闘者Ⅳ
注文をしてから5分ほどでテーブルに角兎のソテーサウスポート風と牛のテールスープとライ麦パンが運ばれてきた。
拳大の肉の入った牛のテールスープは思っていたよりボリュームがありそうだ。
ごろごろとしたジャガイモや人参等の野菜とニンニクの香りも食欲を引き立てる。
一口スープを啜ってみると大胆な見た目に反して味付けは塩胡椒をメインとした素朴なものだ。
しかしこの素朴さを出すことはきっと簡単ではない。
塩胡椒でのあっさりとした味付けの中でニンニクが主張し過ぎず絶妙なハーモニーを奏でている。
味付けはあっさり目ではあるがスープの飲みごたえはかなりのものだ。
スープに溶けだした肉の旨味のおかげであっさり味による物足りなさを一切感じさせない。
スープの味は実に素晴らしい物だ。
だが大事な事を忘れてはいけない。
テールスープの主役である肉の味も確めねばならない。
スープから肉を口に運ぶこの瞬間緊張が走る。
この肉の味でこのスープの評価が180゜変わる可能性もある。
もっとスープを楽しんでからにするべきではないか?
野菜の評価を先にしてもいいのではないか?
完璧すぎるスープは肉を評価する事への大きな葛藤を生んだ。
しかしここで立ち止まるわけにはいかない。
テールスープを食す限り肉からは逃れられないのだ。
意を決してアルベルトは肉を口に入れた。
口に入れた瞬間肉に染み込んだスープが口の中を駆け巡った。
肉から溢れるスープは先程飲んだスープよりも脂が濃く口内をワックスのようにツルツルとさせた。
肉本体はスープを排出するとホロホロと崩れ去っていく。
肉の崩れる感覚をまた味わいたくなり一口、また一口と肉を口へ運ぶ。
肉の中には時折違う食感の部分が混ざっていた。
ホロホロ崩れるのではなくプルプルと咥内をくすぐるこの部分は紛れもないコラーゲンだ。
一瞬の快感を与える肉と舌先を翻弄するコラーゲンにアルベルトは完敗した。
この逸品を何としてでも口に出して絶賛したかった。
「うまい」
これだけのものを食べたというのになんと残酷なことか。
アルベルトはこの味を表現出来るだけの語彙を持ち合わせていなかった。
伝えることの出来ないもどかしさと嘆きのこもった三文字は店の喧騒に虚しく消えていった。
「うーーーん!!おいしいーーー!!」
アルベルトの悲劇を全く気にせずエリナはソテーを味わっていた。
「アルベルトさんも気に入ってもらえましたか!?最高ですよね!!ここの料理!!」
「はい……こんなに美味しい物は食べたことがありません!!」
あまりの感動にエリナが少し引いていたがそれだけテールスープは美味しかった―――




