秘密の共闘者Ⅲ
機嫌を取り戻したエリナがアルベルトを連れてきたのは大衆食堂だった。
〈自由の鐘亭〉
入口はスイングドアになっており騒がしい中の様子がよく見える。
「さあ、入りましょう!ここの料理は絶品なんですよ~」
エリナは実に嬉しそうだ。
奢ると言ってしまって高級料理店などに連れていかれたらどうしようかとヒヤヒヤしていたが、ここならばそんなに高価なものは出てこないだろう。
中に入ると一段と賑やかさが伝わってきた。
胆の座っていそうな中年の女将の指示で若い店員達が忙しなく動いている。
「このお店の良いところは料理だけじゃなくて色んな人がいるっていうのもあるんです!」
テーブルには町の兵士や猟師、それに行商人など地元の人間以外にも老若男女様々な客がた。
旅の中継地点というこの町の特徴がよく出ている。
「早くテーブルに着きましょう!」
「え?いやでも空いてないですよ?」
どのテーブルにも既に客がいて見たところ空いている席はなさそうだ。
またエリナが不機嫌にならなければいいのだが。
「何言ってるんですか!行きますよ!」
どうするのか分からないがエリナに強引にテーブルのある辺りまで引っ張られてしまった。
「ここいいですか?」
テーブルの前でエリナが厳つい商人風の男に声をかけた。
「ああ、ちょっと待ってくれな。今場所空けるからよ。」
そう言って男は席を詰めて二人のスペースを作ってくれた。
「ありがとうございます!ほらアルベルトさんも!」
「ああ、ええと、ありがとうございます」
完全にエリナのペースに飲まれてぎこちなくなってしまった。
「へへ、気にしなさんな!」
あまり人相は良くない男だがにっこりと笑いかけてくれた。
「フリーベルは旅の人が多いですからね。初めての人は慣れないかもしれないけど知らない人同士でも助け合うものなんです!」
「ははは、立派なお嬢さんだ!連れの兄ちゃんは旅は初めてかい?この町は特に旅人に優しくて良いところだよ!」
「ええ、小さい村から出てきたばかりなので……」
いい人そうではあるが豪快そうで得意なタイプではない。(そもそもアルベルトに得意なタイプがあるのか疑わしいが)
「そういえばアルベルトさんはどこから来たんですか?」
「ここから西の森を抜けた所にあるクシル村っていう小さな農村です」
「うーん……聞いたことないですね」
特に名産品があるわけでもなく人の往来もほとんどない村なのだから知らなくても仕方がない。
「あんた西から来たのか……そのクシルって村は魔物に襲われたりしなかったのか?」
尋ねてきた商人は顔を曇らせていた。
「周辺には魔物も住んでるのでたまに村にも迷いこんだりはしますけどいつものことですし」
「いや、そういうんじゃなくってよ。もっと魔物の群れとかに襲われなかったかって聞いてんだ。」
「群れではないですね。来ても1、2匹ぐらいです。」
それを聞いた商人はあまり納得いかない様子だった。
「西で何かあったんですか?」
真剣な話にエリナも気になって質問した。
「ああ、3カ月ぐらい前からどうも西の方で魔物が活発になってるらしくてな。警備の甘い小さな集落なんかはいくつも潰されてんだ。兄ちゃんの村も小さいって言うし気になってな。」
クシル村にいた頃特にそんな話は聞いたことがなかった。
「まあ、でも襲われてないってんならなによりだな!」
「ご注文はお決まりですか?」
そばかすのあるウェイトレスがテーブルに来た。
「角兎のソテーサウスポート風で!アルベルトさんはどうします?」
そう聞かれても何を頼めばいいのか分からない。
魔物の肉は魔素が入っていると言うのを聞いたし同じものというのも遠慮したい。
「何かお薦めはありますか?……魔物以外で」
「でしたら牛のテールスープがお薦めですよ」
「じゃあそれとライ麦パンをお願いします」
魔物肉を否定したことにエリナは少し不満そうだが普通の肉があってほっとした―――




