王都6 ギルマスとの面会
「ただいま重要書類を片付けさせている所ですので、少々お待ちください」
ギルマスとの面談についてカウンターで話したら応接室に通されたがギルマスは後から来るようだ。
……というかこの子、さりげなく使役形で話したな。ヨシズの言っていた事は事実か。
「……変わんねぇなぁ。あいつも」
「そう言えば、ヨシズはギルマスとはどれくらいの付き合いがあるんだ?」
「学生時代からだと言っただろ。もう10年は経つなぁ」
「そうか。長く続いているな」
「10年は長いよね」
冒険者という職業は死と隣り合わせと言ってもいい。それに、昨日まで共にいた者が翌日にはいないなんてことはままあることだ。旧友の行方が分からないなんてことも。その中で10年来の友はやはりかけがえのない存在となっているのだろう。
「だ〜か〜ら! 俺はもう書類なんて見たくないの! そもそも今日はこの時間は面会だろーが!」
「拘束が嫌ならばさっさと書類を片付けておくべきでしたね。まぁ、これ以上待たせるのも申し訳ないので今は不問にいたしますが」
騒がしく扉を開けて入って来たのはギルマスとその秘書だろうか。
「おっ、ヨシズじゃねーか! 久しぶりだな」
「ああ。お前は相変わらず騒々しいな。で、鬱陶しい! もたれかかんな」
オラオラーとヨシズの肩に腕をかけて笑うギルマスを跳ね除けるヨシズ。
正直に言っていいか?
いや、思考が停止した。何も言葉が浮かばん。
「ちなみに、その首の跡はナニ?」
ゼノンが遠慮のえ文字もなく言い放った。……うん。それは俺も気になっていたんだが。
「(バカ! 余計な詮索するなよ!)」
「(でも気になるじゃん)」
いや、そうだが、絶対に聞いちゃまずい気がする! 俺の精神的に!
どうか言わないでくれという祈りは通じず、
「ああそれな、縄の跡だよ。こいつらにちょっと縛られてな〜」
これまたきっぱりはっきりとギルマスは答えてくれた。鼻歌すら混じりそうなその軽い口調に俺達は引いた。物理的にズザザザザッと五歩くらい。
「えっ!? ちょっ、何でそんな反応?」
「「「変態に近付きたくはない!!」」」
「ごもっともです」
「いや、縛ったのは君だよね!? 俺はノーマル! 変態じゃない!」
「あら。泣いて喜んでいたと記憶しておりますが」
「えっ」「え……」「ハァ……」
あ、ちなみに俺、ゼノン、ヨシズの順な。
「その反応、とっても傷付くんだが。特にヨシズ。何故ため息をつく必要があるんだ。あと俺は変態じゃないからな!」
「いや、だって学生の時から変わってないなと」
「変わってるよ!? 」
「宿題を終わらせるために泣いて懇願しに来るような性格は変わりませんよね。今は終わらせる対象は書類ですが結構頻繁に我々に泣きつきに来るのは学生の時と変わらないかと。
……さて皆様、ギルマスをいじめるのははここら辺で終えておきましょう。本題をどうぞ」
与えられる限り最大の精神ダメージをギルマスに負わせたらその子はさらりと話題を変えて幾分か真面目な空気へと変えた。
ギルマスは俺は変態じゃないし少しは学生の時から変わっているしとか言っているが信憑性に欠けるだろ。俺の中ではギルマス=変態という方程式が出来上がっている。ついでにギルド職員=女王様なんてのも浮かんだが全力で揉み消した。
ギルド嬢には夢を見ていたからな……。
「俺の評価に納得がいかないがまぁいい。いいったらいい。それより、本当に用件は何だ?」
ここに来てようやく本題に入れる。
「ああ、神狼様の事なんだが」
「ああ、フェンリルな……フェンリル!?」
ギルマスはガバッと神狼様を向き、ちょっと触らせてくれと断って調べる。その様子なるほど、眼光然り、態度然り、確かに仕事ができる人物と言っても差し支えない。
だが、首の跡が実にユーモラスに映る。世間一般の基準では一応美形に属していることがなおさらそれを強調しているな。
「ほい、返すぞ。驚いたな。こいつは間違いなくフェンリルだ。それも、自分で色をごまかす術を使えるみたいだから、結構高位だな。どこで拾って来たんだ?」
さて、今話そうとしているのは間違いなく爆弾になることだ。あれの解決は急いだ方がいいが、ちと面倒になるんだよなぁ。
「しょうがない。腹を括るか」
「ああ」
「うん」
その様子にギルマスはいやぁ〜な予感を感じたのか、顔を顰めている。
……心配するな、死なば諸共。仕事のデスマーチといこうじゃないか。ハハハハハ
「ちなみに、この部屋の防音は?」
「完璧だ。そんなに気にするなら念のためシュリも退室させるか?」
「信頼に値する人物なら別にいい。実はな……かくかくしかじかと……」
話したのはドルメンからここクナッススまでの道中の出来事。締めにゼア達のパーティも見ていると教えたら感謝された。こういったことは複数の視点での報告が欲しいそうだ。手間が省けそうで助かるってことだな。
「……それにしても、そんな機能がある道具なんざ聞いたことがない。新しく作られたものか……。どちらにしろ、ロクなことにならなさそうだ」
疑うでもなくあっさりとギルマスは俺達の話を信じ、対策を立て始めた。俺等も巻き込んで。
「……で、なんで俺も考えなきゃならないんだ?」
一通り対策案を出してヨシズがポツリと呟いた。
「俺のため?」
なんでもないような態度でそう告げたギルマス。
プチ
ん? 何か切れた?
「……なぁ、マグルス。実は俺等、オモテに行って来たんだが。この意味、分かっているな?」
にっこりと笑っているが笑えていない笑顔をギルマスに向けているヨシズが居る。切れたのはヨシズだったか。で、オモテって脅しに使えるのか……。
そしてギルマス……マグルスって名前なんだな……はヨシズの言葉を聞いて青褪めていった。それはもう、真っ青に。見事な色彩変化だな。
「……それマジ? オモテが営業を始めていたのか?」
「マジだ。店主もあの人だった」
二言三言コソコソ話していたが何か結論に至ったのか幾分か晴れやかな顔になっていた。開き直ったと言える。
「……所で、問題は名付けだったか?」
そう。対策案を出しているときにその話題になっていた。俺としてはあまり神狼様と同格だと知られたく無かったので黙っているつもりだったがそこは流石それなりの経験を積んできたギルドマスター。俺は何も言っていないのにこの状況を打破する道を示してくれた。
――契約魔術を用いて精神世界の中で名付けるという事を。
精神世界…そこは古くから生き物同士の契約の場として使われて来た。しかし、ほとんどの生物は行くことは出来ない。思い、想いがダイレクトに伝わるため強靭な精神を持たぬ限り発狂してしまうからだ。だがそこなら誰にも聞かれることなく契約を結べる。
シルヴァーと神狼様は特殊な過程を経てきたため発狂せずにいられるかもしれない。
しかし、彼等も自分で行くことは大変難しい。そこで必要になるのが契約魔術である。これをマスターするには魔力操作のセンスとかなりの魔力量が必要になる。それを考えるに、ギルマスはギルマス足る力を持っていると言えよう。
「――なぁ、神狼様。本当に俺が名付けていいのか?」
ぐる《構わぬ》
一人と一匹はそこで互いに同格であると宣言した。名付けの悪影響をなくすために。
「神狼様の名前はアルジェント……普段はアル、でどうだ?」
ぐるぐる♪ 《よかろう♪》
契約は成った。名前の呪は『支配する』ものにはならなかった。それは何の奇跡か、名付けでアルにかかったのは『守護者』の祝福であった。
そして、シルヴァーにも『調停者』の祝福が与えられていた。
しかし、彼等はそれを知らない。祝福は与えられたことを自覚できるような物では無いのだから。
いずれ彼等は、その祝福の効果で嫌でも世界の騒乱に巻き込まれて行く。
以下今回出て来た物の簡単な設定……になるかな? いろいろ省いているので逆に分かりにくくなっているかもしれません。
契約
契約魔術を用いてまでするものはたいてい呪が関係してくる。また、『格』の違いでいろいろ異なる。
例えば
ヒトとヒトの契約。格は同じ。弱いが名付けによる呪あり。
ヒトと魔人の契約。魔人の方が格が高い。ヒトは魔人の支配下に下る。強制的な呪である。
ヒトと魔獣の契約。ほとんどの魔獣は格が低い。魔獣がヒトの支配下に下る。名付けによる呪の影響高し。
ヒトと幻獣の契約。一部は気まぐれに呼びかけに応える。幻獣の方が格が高い。しかし、名付けによる呪あり。
ヒトと聖獣の契約。気まぐれに呼びかけに応える。聖獣、神獣の方が格が高い。名付けること不可能。
魔獣同士の契約。格は殆ど同じ。強き方が他方を従える。名付けによる呪なし。
聖獣同士の契約。格は同じ。互いの力を高める。名付ける方の心理によって呪がかかる。
祝福
力ある者達の定めに沿ったもの。現在神が干渉出来ることの一つ。
名付けの悪影響をなくす
同格の者同士の契約において、契約魔術を用いた後に同格であると宣言してから名付けると、かなりの確率で名付けの悪影響をなくすことが出来る。
あんなに仰々しい魔術使っているのに名付け軽っ……と突っ込めますよねぇぇ。
ドウシテコウナッタンダロウ(ーー;)
シルヴァーとアルは聖獣同士の契約ですね。そして祝福は…読んでいけば分かる様にしていきたいと思います。(←予定は未定…というか、まだまだ先のことになりそうです)




