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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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王都5 再びのオモテ

 

 さて、ヨシズから出された問題は分からないから後回しにしてと。

 ヨシズに続いて入った店はやはりテーブル席が少ない。俺が飛び込んだあの店で間違いない様だ。


「いらっしゃい。おや、昨日の方ですね」


「こんにちは。パーティメンバーと来たぞ」


「ということはこの子はメンバーの一員として扱うのですね?」


 いつの間にか店主の手は神狼様(フェンリル)を撫でている。

 あ……神狼様(フェンリル)のことについて言うのを忘れてた。


 わふっ!

 神狼様(フェンリル)がちょっと怒った様に鳴く。


「あ〜忘れてた。どうする?」


「別にメンバーでいいだろ。俺達は問題ない。むしろ心強い」


「うん。十分に意思疎通を図れるし、問題ないと思う」


 はい、決定。


「これからよろしくな」


 わふん

 神狼様(フェンリル)もどことなく満足しているようだ。


「決まったようですね。占いに移りましょうか?」


「ああ」


 占う方法はたくさんあるがここではカードを7枚引いて、その絵柄から結果を出すようだ。



『分岐』『熟れた果実』『聖杯』


 その先は分かれ道

 いずれは熟した果実に引き寄せられ

 栄光を手にする


『ゆりかご』『分岐』『逆立ちの道化師(ピエロ)


 それは終わりと始まりへのわかれ

 されども


『舞い降りる天使』


 奇跡が起こるであろう



「……これはあくまでも占いです。確定した未来を言っているのではないのでこの結果を過信して行動するのはお勧めしません」


「ま、最高の結果を手にする可能性があるというのはうれしいな。後半がよく分からないが」


 俺もよく分からん。だが、前半はこのパーティは一度別れることになると言っているのだろう。もしくは、重要な選択の時が来るとかか? そして、機が熟す時に再び集まり、聖杯……栄光を手にする……冒険者的に見ればおそらく魔の森探索成功などのことだろうか?


「後半については私も解説をしにくいですね。様々な意味に取れるので、きっとその時になったら分かるものなのだと思います」


「一つ質問していい? 『舞い降りる天使』って奇跡が起こるという解釈をしていたけど、死者からの言伝という意味じゃないの?」


 ゼノンが質問する。何故この質問が出てくるのか俺にはさっぱりだ。


「そのように取る場合もありますが『舞い降りる天使』単体ではやはり奇跡の意味合いが大きいのですよ」


「へぇ。前にシスターに教えてもらった時は死者からの言伝という意味で使っていたからそれで覚えていたよ」


 これでゼノンの疑問も解けたようだ。俺の不勉強も明らかになったな。

 ……泣かないぞ。


「そういえば、店主。ここではランチはやっているのか?」


「やっていますよ。ただ、ここに来る方は滅多にいないのであまり凝ったものは出せませんが」


 ランチもやっているようだ。だが、凝ったものを出せない理由は飲食店としてどうなんだ。


「少し早いがここで昼にしないか?」


 俺はヨシズ達に聞く。ここで昼を食べておけばわざわざ逆方向の食堂街まで行かずに済むし、ちょうどギルマスとの面会時間に合いそうだ。


「「賛成」」

 わふん!


「では、少し待っていてください」


 店主が奥に行ったのを見送ると俺達は雑談に花を咲かせる。


「シルヴァー。さっきの占いの意味は理解しているよな?」


 俺はヨシズをじとんと見つめる。


「お前は俺を馬鹿にしているのか? 後半は抽象的すぎてよく分からないが、前半は流石に分かるぞ?」


「いやいや、馬鹿にはしてねぇよ。ただな。」


 そう言ってヨシズの表情は真剣なものへと切り替わる。


「俺達冒険者にとっての栄光とは魔の森の探索の成功なんだ。だが、ただ森を探索しただけじゃ栄光なんて言葉を使うことはないだろ? きっと他に何かあるんだと思う。 俺達の命運が掛かってくる何かが。

 ……まだ先のことかもしれないが考えておいて損は無いと思う。頭に置いておいてくれ」


「ああ。分かった」



 わさわさ

 がうっ



「ところで、ゼノンは何をやっているんだ」


「うーん。遊んでる。このウルフね、こうやって毛をかき混ぜるとふんわり逆立つんだよね。ふかふかで気持ちいいんだ」


 わさわさ……ぽふっ

 がうっ


 う~


「困っているぞ。頭をどけてやれ」


 神狼様(フェンリル)が困っている様子を見て助けてやることにした。


「はーい。あ、そう言えば、この子に名前はどうするの」


「うーん。名前はなぁ……深層心理に働きかける呪になるからな……」


 例えば愛玩魔獣のシーズを野生から連れて来たとしよう。その時、シーズには個々を表す名前がない。そのため、捕まえて来た人は『支配する』ことを強く意識して名付けることで自分に従順にさせることが可能になる。これが呪による支配である。

 だが、そのように意識しなくても名付けられたものは名付け親にわりかし従順になることが多い。それはおそらく誰しもが持っている無意識下の支配欲が影響していると言われている。ただし、それは自分より相手が格下であることが条件になる。

 シルヴァーは神狼様(フェンリル)を自分のパーティメンバーとして扱うつもりであり、そこに呪による支配だのを関わらせたくはないため、名付けをためらっているのである。


「でも、大抵の人はこの子より格下でしょ。支配は効かないとおもうけど?」


「確かにな。だが、俺が名付けるわけにはいかない」


 そう、神狼様(フェンリル)は確かに大抵の人より格上だろう。今のヨシズやゼノンでさえ支配は効かないはずだ。だが俺はダメだ。


 何故か?


 おそらく俺と神狼様(フェンリル)は同格だからである。

 ヨシズやゼノンはこいつを幻獣と見ているが、俺はそうだとは思えない。自分の意思で言葉を伝えられる、それは聖獣だろう。そして、聖獣となるまでになった存在は大きく二つの道を選ぶ。より獣としての力を強めるか、ヒトのカタチ(・・・・・・)をとり、多芸多才に生きるか。


 俺は後者だが、こいつは前者ではないだろうか。ギルマスに確認してもらうまで確信は出来ないが。


 格が同じ時、呪は掛ける側の影響を受けやすい。ただ名前を付けようとしただけで『支配』の力がかかることが多分に予想出来る。


「ふーん。どっちにしろギルマスに確認して貰うまで迂闊に名付けは出来ないよね。……って、そうだ。ギルマスを言いくるめる方法を考えないと。ねっ! ヨシズさん」


「そこで俺にふるなよ。それにあいつを言いくるめる方法なんぞ考える必要ねぇよ」


「何故だ?」


「あいつはサボり魔だが、人を見る目は素晴らしいんだ。だからそいつが無害なら文句を言うことはしないだろ。意思疎通が可能ならって冒険者カードを発行してくれるかもしれん」


「んな馬鹿な……」


「事実だ」


 それはもうきっぱりと言い切られた。不安を感じたのが馬鹿らしくなった。


「お待たせしました。話中でしたか?」


 丁度いいタイミングで店主が料理を運んで来た。


「いや、一区切りしたところだから問題ない」


「そうですか。こちらが本日の定食です。一食200ハドとなります。この子には生肉でいいですよね?」


「それでいい。助かる」


 安いな。それでいてボリュームはたっぷりだ。俺達は各々お金を払って食べ始める。


「「「いただきます」」」


 やはり昼は肉をガツンと食べておきたい。午後は依頼を受けに行くから少ない昼食だと夕方にはどうしても腹が減ってしまう。

 料理の味は可もなく不可もなく、だな。だが、決してまずいわけではない。肉はまろやかで美味しい。仕込みからしっかりしていた証拠だろう。


「ごちそうさま」


「口に合ったようで良かったです」


「ああ。うまかった」

 わふん!


 さて、昼食も済ませたし、次はギルマスとの会談だな。ヨシズからギルマスのことを少し聞いたが少々想像し難い。逃亡能力随一のギルマスって何だよ……。

 またいつか会いましょうと言う言葉に見送られて俺達は店を出た。当然、後ろを振り返っても店は既に何処かへ行ってしまっていた。


「あの店は一つの場所で一回客を受け入れたらまた別の所へ転移して行くんだよ。えげつない取引や内密の話をすることもあるらしいから巡回兵を撒く意味もあると聞いたな」


「へぇ〜。じゃあまた会う……というか店を見つけるのは至難の技だね」


「まあな。だが、見つける奴は見つけるぞ。ギルマスがその筆頭だ」


 いやほんと、ギルマスって何者?







「あ、そう言えばあの問題の答えは何だったんだ?」


「問題?」


「ほら、何故オモテって言う看板だったのかって問題。入り口で聞いただろ?」


「ああ、あれか。とっくに気付いていたと思っていたが分かっていなかったのか。

 ……まあいい。まず、あの看板には片面しか文字が無かったよな? それはオモテって言う言葉だった。オモテだけ(・・・・・)しか無い、つまりウラが無い(・・・・・)、と言うことで『 占い(・・) 』という言葉を導き出せる。この店は占いもやっていますよーってことを言っているんだな」


「へぇー」

「なるほど。だが、客を寄せるには向かないだろ」


「あそこはたくさんの客を求めている訳じゃ無いからなぁ。そうじゃなきゃ転移陣まで組んで逃げ回るような営業はしないだろ。さ、分かった所でとっとと行くぞ」



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