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アストライト・ジャーニー ~終星の魔女と機械兵~  作者: 天野 肇
第1章 最後の一人と最後の一機

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5

 確かに。そう、確かに僕が放った弾丸全てが彼女を襲った。


 はずだった。そうなるに決まっていた。だというのに。


 気がついた時には、鉛玉は反転してあろうことか僕を襲っていた。あまりの出来事に反応が遅れて、一発目、二発目は胸部と右脚のつけ根に、三発目は左袖を掠め、四発目は頬の真横をすり抜けた。残りは変則的に、そしてバラバラの方向から飛んできたものの、それをかわし、弾は壁や床にそれぞれ着弾して煙を上げた。


 なにが起こったか瞬時に理解できなくても、弾丸がどうなったかは把握できる。


 弾を……弾かれた……?


 どうやって。


 彼女はそんなことをする素振りなんか見せていなかった。第一、あの速度で、なおかつ複数の弾丸をこちらに打ち返すなんて、あり得ない。


 しかし、これはほんの一部。想定外はまだ続いていた。


 すぐ目の前にいたはずの彼女が、忽然(こつぜん)と姿を消して。


「いやあ、びっくりした……死んじゃうかと思ったよ」


 今、僕の背後にいるのだから。


「ていうかひどくない。壁も床も蜂の巣じゃないか、これも使い物にならなくなっちゃったしさ」


 車椅子に乗った彼女の手には、先程まで持っていなかったはずのべこべこに凹んだフライパン。


「家の中で銃なんか使わないでよ」


 それを片手で振りながら、ノルニルは僕にゆるく抗議する。突っ込みたいところが次々に出てくる。


 あえて簡単な言葉を使うなら。彼女は一瞬にしてその姿を目の前から消した。


 瞬間移動、ではない。速度でもない。だとすれば、このあべこべな状況は――。


「魔法か……」

「ん、まあ。お察しのとおりだけど」


 そんな睨まないでよと、彼女は肩をぎゅっと縮こめる。


 こちらが攻撃を仕掛けているのだ。抵抗されるのは当然のこと。やはり最後まで残ったマギアというだけある、ということか。


 いいじゃないか。魔術と技術は古来からぶつかりあってきたもの、決着をつけるのであれば、こうであるべきだ。


「さあ、次は君の番だ。お得意の魔法とやらで反撃するといい」

「だから……わかんないやつだなあ、ぼくはケンカはしないんだって」


 理解していないのは、君の方だ。機械兵相手に、戦いを避けられると本気で思っているのか。


 戦いたくないの一点張りで全てを終わらせられるのならば。テクナも、マギアも、機械兵も。戦争なんてしやしないんだ。


「君が構えないなら、こちらから行く」


 僕は今一度臨戦体勢に入る。


 同じ轍(てつ)は踏まない。射撃が駄目なら、次は接近戦に持ち込むのみ。僕は彼女の背後へ素早く回り込み、片脚を振り上げる。人の皮を被っていても、殆どが特殊加工の鋼で構築されたこの体から繰り出される蹴りは、弾丸にも匹敵する。


 首根は捉えた。


 僕の中で勝利がほぼ確定しかけた、その時。ノルニルはまたも僕の視界から完璧に消えた。


 一秒もなかった。どこへ、


 そのまま遠心力で拳を振りかざす。だが、死角から感じ取った気配はまたも忽然(こつぜん)と消え、彼女が次に姿を現したのは、僕の直ぐ真横だった。


 完全に予測不可能。手品師のように消えたり、現れたり。この車椅子の少女は、なんの魔法を使って、さっきから僕の攻撃を回避している。


「ねえ。まだやるの?」


 一旦距離を取り直す僕に、ノルニルは笑顔を消し迷惑そうに尋ねる。


「このままやったら、家が壊れちゃうよ」


 そんなこと、死ぬか生きるかという現状で心配するに値しないことだろうに。


「なに言ってんだよ。心配するよ、ぼくのおじいちゃんが遺して、お姉ちゃんが“おまじない”をかけて守ってくれた大切な家なんだから!」


「そんなに嫌なら決着をつけることだな」


「だから、ぼくは……っ」


「拒むなら、君の前にまずこの家を壊す。そうなる前に君が僕を倒せば、それでいい」


 すると彼女は、一瞬だけ、人間でいう怒りの感情に似た表情を浮かべ、眉間に皺を寄せたまま車椅子の背もたれに深く沈んだ。


「あーあー。もう…………頭堅いやつだよ、きみは。もういいよ、ムカっときたし」


 戦闘体勢とは思えないが、なにかするか。身構える僕だったが、彼女はそのまま細い腕を頭上にかざし。


「何を言っても無駄なわからず屋さんには、五倍速をお見舞いだよ――ッ」


 そう言い放った。


 何が来る。次はなにが。その先の戦法を割り出している最中に、僕の頭上にとんでもない衝撃が降り注いだ。規格外過ぎて数値化できない、先程の比ではないということだけは明確だった。


 機械に痛覚は存在しない。しかし、人間がそうであるように、僕の弱点もまた頭部にあった。


 脳天を貫くあまりの重さに耐えきれず、一瞬にして頭部ユニットの重要なデータが破壊され、視界が、ぶれる、砂嵐が、ノイ、ズ、が……。


 反響する無数の金属音。頭部に穿(うが)たれた、独特の冷たさ。


 鈍器ではない。それでいて薄く、平べったく、硬い。


 倒れる瞬間、彼女の方を見てみると。その手には、持っていたはずのそれが消えていた。


 最後に取得した情報。僕をショートさせる決定打となったものの正体。


 それを、僕は理解した。


 がくんと膝から落ちると同時に、ガラクタ同然にひしゃげたそれが床に転がる。


 フライパン……って。


 そんな、ばかな。


《思考処理、停止》

《戦闘継……続不……能》




 そこで、僕の意識は再び落ちた。


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