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口にした瞬間、彼女がころっと笑った。
「そうだよ、ぼく、マギア!」
拍子抜けしそうなくらい随分あっさり返された。
「それがどうかした?」
「どうもするさ」
残酷だな。と、僕が人間だったら苦悩しただろうか。
「残念だよ。せっかく君はこうして僕を助けて、目覚めさせてくれたというのに、それは全て間違いだったみたいだ」
「んん? どういうこと……?」
「君が人間なら良かったのに、ってことさ」
いや、僕が人間なら良かったのかもしれない。僕が人だったら、たとえ長い因縁関係にあるマギアでも、助けられたことに恩を感じて、少しは情が湧いたはずだ。
なのに僕ときたら、人の感情プログラムが埋め込まれていたとしても、結局は命を持たぬ機械兵に過ぎない。
僕にとっては皮肉だが。彼女にとって、これは悲劇だ。
助けた相手に殺される。機械の僕でも、哀れだと思う。
だが、可哀想だとは思わない。そうしなければならない理由が、こちらにはある。
僕らに深く刻まれた、たった一つの存在意義を示すプログラム。
《マギアを殲滅せよ》
この最優先プログラムがある限り、マギアが眼前にいる限り、僕は役目を終えられない。戦争は、終わらない。
「せめて先に謝っておくよ。たった今、僕は君を殺さなくちゃいけなくなった」
「ええ⁉︎ いきなり殺すとか、こっわいこと言うなあ」
泣いて叫ぶか、逃げ惑うかと思った。けれど彼女――ノルニルは車椅子の背もたれに寄りかかって、ははあっと笑った。
「なんで? ねえ、なんでそんなこと言うの?」
首をかしげる彼女の顔に、悲しみはない。
「戦争を終わらせるためだ。君はマギアで、僕はテクナに作られた機械兵。争わない理由がない」
「なにその理由、おかしいの。たった二人だけしかいないのに、戦争もなにもないよ。ケンカって言う方が正しいんじゃない?」
「違う。これは戦争だ。どちらかが死に、どちらかが勝ち残るまで終わらない」
僕は、それが全てだと教え込まれた。
いくつもの命が散った。テクナも、マギアも、お互いを滅ぼすために戦い続けた。ノルニルの言うことが本当ならば、テクナ側である僕と、マギアの最後の一人である彼女。ここで潰し合えば、全ての決着はつく。であれば幕を降ろすべきだ。
「そんなの、もうどうでもよくない?」
「よくないわけない。これは、テクナたちの悲願だ。僕は人間ではないけれど、それが人間の望みならば、マギアは一人残らず滅ぼさなければならない」
「そうすれば、きみを作った人たちが喜ぶと思うんだ」
「ああ」
「みんな死んじゃったのに、誰が喜ぶっていうの」
論理としては、正しい。死者は喜ばない。テクナがすでに滅んだというなら、僕が最後のマギアを討ったところで、勝利を祝う者はいない。だが、問題はそこではない。僕に課せられた使命を遂行するか否か。意味は、その一点にある。
「そんなもん忘れちゃいなよ、ぼくはきみとケンカする気なんてないんだからさ」
「それはできない。僕には全マギアの殲滅命令が下されている。命令放棄は軍規違反だ」
「うわあ、すごいね。きみたちってそこまで人のいいなりなんだ」
少し違う。これはプログラムだ。たとえ自身が滅びることになろうとも成し遂げろという、機械には逆らえない刷り込みだ。
「よくわかんないけど。ライ君は今ケンカしたいんだ、ぼくと」
「ケンカがしたいわけじゃない。戦争を終わらせたいだけだ」
どこかかみ合っていない会話でもお互いわかっていたはずだ、これから何が始まるか。
「僕と同じ機械兵たちは、君の仲間を山ほど殺してきたぞ」
戦う理由は、いくらでもあるんじゃないか。
「そうだったとしても、ぼくはきみとケンカしないよ、してあげないったら」
「同意が欲しいわけじゃない」
「きみ、意地悪だなあ」
そんなやり取りをしていても、彼女は始終笑顔のままだ。それに僕は違和感を覚える。
魔法族というのは、感情のバランスが人とずれているのか。それとも機械と同じく、あるふりをしてそうしているのか。だとしても、結論は変わらない。三百年も老いることなく平然と生きているなら、たとえ幼体であろうと化け物であることに変わりはない。
どうあっても、この子は、ここで仕留める――。
ベッドから降り、僕は右腕を伸ばし構えた。人間と同じ姿形をしているものの、僕の体は余すところなく武器として設計され、マギア殺しに特化している。
そういうふうに、造られた。
ひとたび敵と認識すれば、右腕は形態を変え、銃口を備えた武装へと変わる。
「うっわああ! すっご! メカって感じだ、メカって感じ! かっこいいいい〜!」
目を輝かせて感心している場合か。それとも油断させようというのか。
どちらにせよ、結末は同じだ。
この至近距離での砲撃。いくらマギアだろうと躱せまい。
それでも、僕には人の心のまがい物が搭載されている。せめてもの情けとでも言えばいいのか、一発で楽になれるようにしてあげる。
「さようなら、最後のマギア。いや、魔女――」
少しでも君と話せてよかったよ。
殺すくせにそんなことを言うのは、蛇足だな。
そう思いながら、僕は車椅子に乗った少女に照準を合わせ、指を少し動かすような感覚で砲撃を開始した。
一度に放たれた弾丸は十発。それは瞬時に彼女の急所を貫き、文字どおり全てを終わらせる。
途方もない歳月をかけて繰り返された大戦に、ピリオドが打たれる。
そのはずだった。




