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そんな、……馬鹿げている。許容しきれず、導入された感情プログラムの数値が一気に跳ね上がる。
「うそじゃないよ、ほんとだよ」
そう言われても、即座に受け入れられる情報ではなかった。
「テレビ、いや新聞はないか。今は何年の、いつなんだ」
「そんなもんうちにないよ。今何年? んー、そういうの数える習慣も無くしちゃったからな」
困惑という感情プログラムが暴走して、頭がショートしそうだった。
腕組みをして天井を向く、その子の心拍は見る限り正常で、到底嘘をついているようには見えない。だが、三百年──そんな途方もない歳月、僕が沈黙している間に過ぎ去っていただなんて到底処理しきれるものではない。
だから僕は、僕らの唯一の存在意義ともいえるそれについて、問いたださずにはいられなかった。
「じゃあ、戦争は――」
「はい?」
「戦争はどうなったんだ。人族と魔法族の戦いは──」
「戦争? ああ……そんなものはとっくのとうに終わったよ、きみ、なにも覚えていないの?」
「ああ」
「そっか、まあ三百年も眠っていたなら仕方ないよね」
「君は知っているんだな、その結果を。頼む。教えてくれ。戦争で勝ち残ったのは、勝者はどっちだったんだ。テクナは……人は勝ったのか?」
それとも。
「勝者なんかいないよ」
するとその子は、自分の乗っている車椅子のタイヤをひと撫でして、きっぱりと僕に告げた。見飽きたものを見るような目をして。
「どっちも勝たなかったよ、むしろ、どっちも負けちゃったんだよ」
「は……」
どういうことだ。なにを言っている。
そんなのおかしいじゃないか。戦争をすれば、どちらか一方が死に絶え、どちらか一方が生き残る。そういうシステムだ。
なのに、どっちも負けたって。
「言葉通りの意味だよ。この星で争いを続けていた二種族は、お互いを削り合って、最後は共倒れになった。その結果、テクナが作り出した機械兵であるきみと、ぼくだけが生き残った」
彼女は、ふうとため息をついて続ける。
「もちろん、この星には争いに巻き込まれなかった小さな生き物たちはまだいくらか残ってるよ。けど、同じ言葉で話せる相手は、たぶんもう、ぼくときみくらいしかいないんじゃないかな」
「この星に……言葉を交わせる存在は、僕と君だけ……」
「うん、そう。外を何年か歩けばわかると思うよ、誰もいないから。だーあれも」
「そんな……なにかの冗談だろ」
「うん、ぼくジョーダンは大好きだけど、こればっかりはねえ」
争いを繰り返した二種族は、戦争っていう“化け物”に最後は食われて、殺されちゃったんだよ。それが結末なんだ。
そう言ったあと、その子はまた小さく笑って、車椅子を器用に操り、火の上でしゅんしゅん歌う鍋の方に向かった。
「さあ、さあ、ご飯食べよ。ごはんごはん。ぼくお腹すいちゃったよ。お喋りできる口があるきみは食べれるのかな? まあいいや、久しぶりにこうして話す相手がいるんだから、今日はごちそうだよ」
「――待て」
そこで僕はベッドから体を完全に起こし、その子を呼び止めた。体は意外と自由に動く。この子がなにかを施したんだろう。
「なあに」
「戦争が終わった……いや、違うな。まだ。戦争は終わっていない」
「うん?」
瞳の裏側に搭載された解析機が、キリキリと忙しなく情報を読み取る。
対象、車椅子に乗った子供。
陽光に照らされた稲穂のような、淡い金色の髪を束ねた一本の三つ編み。装備は薄荷色のワンピースに、フリルをあしらった純白のエプロン。
薄灰色の澄んだ瞳。長く濃いまつ毛に、ふくよかな頬。あどけない顔つき。小さくてもよく動く唇。
外見年齢は、六、七歳ほど。性別判定、女性。
標準的な体型をしているものの、彼女の素足はだらりとして、一度も動かない。その脚が二本とも完全に機能を失っていることを加えれば、脅威的な戦闘力は検出されない。
だが、少なくとも無力ではないのだろう。この短時間で得た情報は、彼女の正体を見破るには十分な量だった。
彼女が明言した通り、僕は人に作られた機械兵のうちの一機。崇高な機械文明を築いてきた人間――通称テクナと敵対する、とある種族を殲滅するためだけに生まれてきた。
そして、長い戦いの最中、なにかが原因で完全停止し、眠り続けていた僕を運びこの場所に匿ったのだろう、眼前の少女。
テクナは短命な生き物だ。三百年は生きられない。
となれば、答えはひとつだ。
「君は、魔法族――マギア……だな」




