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気がつくと、僕らは折り重なるようにして横たわっていた。
あれから、箱舟は滑走路の先にある、地中から地上へ続く発進路を一気に駆け上がり、天へと上昇した。
ごうごうと音を立て、これでもかというほどに揺られて、体は勝手に浮き上がり、もうこれ以上ないくらいに、そろそろやめてくれと音を上げたくなるぐらいに、僕の頭部やあちこちは、船内の至る場所に叩きつけられた。
そのたびに、僕は腕の中のノルンを抱え込んだ。僕は壊れてもいい。でも、彼女だけはこの衝撃からなんとしても守らなければならない。
そう思った瞬間、胸部中枢の奥──埋め込まれた星命ノ輝石が、僕の意思に呼応するように星の輝きを帯びた。
セシャット。
あなたが遺した力が、この中に、まだ残っているのなら──。
頼む。どうか、力を貸してくれ。
次の瞬間、淡い光が僕の中から広がり、ノルンの体を包み込んだ。
光──、いや、これは。
周囲に、薄い膜を張ったような揺らぎが生まれる。
このありえないほどの負荷がかかった船内で、彼女のいる場所だけが、別の空間として隔てられたように。
この感じ……これは、あの丘の上の箱庭を囲っていたものと同じ──。
そう思った瞬間、次の衝撃がやってきた。それにより僕の装甲は砕け、視界は何度も白く弾け。そして、ついにはショートしたのだ。
目を覚ます。
まず、腕に抱え込んでいたノルンの安否を確認する。
「……おでこ打った、体も痛いよ」
「それぐらい文句言えれば大丈夫だな」
腕の中でもぞもぞ動いて、苦しそうな顔を見せるノルンに、僕は初めて――そこで少し笑った。
「でもライ君はもっとひどいね……お腹は破裂してるし、首も曲がってる、腕もボロンってなってるしさ」
「どおりで視界が曲がってたわけだ」
「また直さないとね」
「ん。……頼むよ」
機内にポーンと音が一つ鳴り響き、ノアのアナウンスが入ってくる。
『お目覚めデスかお客様。今しがた無事に大気圏を突破いたしました。ドライヴモードを解除し、機内の重力は正常値まで戻りました。いやはや……どうなることかと思いましたが、お客様がワタクシの中でトマト缶とコンビーフをぶちまけたような状態にならなくて本当に良かったデス……。』
「ノルンよりも面白いものの例え方をするなノア」
にしても、本当に大気圏を突破したっていうのか。僕は固定していた腕をほどき、ノルンを離して、一緒になって箱舟の丸い窓から外の様子を確認することにした。
ノルンが歓声を上げ、僕は信じられない光景に数秒フリーズする。
地上でも、上空でもない。
そこに広がっていたのは、もう僕たちの知っている世界ではなかった。
光が蘇り、やがて死んでいく場所――そしてまた、蘇る場所。
今はそれぐらいしか表現が思いつかない。
ただひとつ分かるのは、僕たちが今いるのが星と宇宙の境目だということ。
そして船は、僕たちがそうやって釘づけになっている間にもぐんぐんと上昇していき、故郷の星を小さくしていく。
この未知に溢れた世界を僕は記録として、しっかりと残しておくことに決めた。
「果てしないな……」
やはり地表には、青と緑は残されていなかった。
かつて星の表面のほとんどは、美しい青で覆われていたというのに。
戦争の果てに待つもの。ああ、これが答えなんだな、トート博士。
「ぼく……、今日もあの家の床で眠るものだと思ってたよ……」
高い! すごい! を繰り返して窓ガラスに頬をくっつけていたノルンが、いつの間にか黙り込み、ぽつりと呟いた。
とんでもない騒動の中で興奮しっぱなしだった彼女も、だんだんと熱が冷め、今の状況を理解してきたのだろう。
自分たちがこれから、全く見知らぬ無限の世界へ旅に出るのだと。
もう、帰ることができないのだと。




