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敵を殲滅するために造られた体が、最大出力に到達すべく全ての回路を一斉に駆動させる。
静かに左足を引き、切っ先は床をなぞるように捉え、刀の刃は上向きに。
刀身を右脇へ低く隠す──“陽の構え”をとる。
「戻ってきて――‼︎」
その叫びに振り向くこともせず、僕は崩れた床を蹴り抜いた。
最初に飛びかかってきた一体を顎下から斬りつける。
振り上げた『鬼殺し』が、黒い外殻を斜めに裂き、返す刃で二体目の前脚を落とす。
そのまま体を半転させ、勢いを纏ったまま背後から迫る一体の胴を突き穿ち、刀身にまとわりついた体液を素早く払い、喰らいつくように次の個体を迎え撃つ。
頭部ユニットの演算が導き出した最短距離。無駄のない足運び。切断に必要な角度と速度で組み上げた、殲滅の型。
砲撃で群れの前列を吹っ飛ばし、間合いへと滑り込む。
飛びかかってくる奴らを刃で薙ぎ払い、それでも間に合わなければ、肘で砕き、膝で潰し、蹴り伏せた。
ただ、奴らも馬鹿ではないらしい。正面だけではない。左右、後方、さらには天井の崩れた配管からも回り込んでくる。
斬っても斬っても黒い波は、途切れない。
ベルトコンベアーみたいに、次から次へと押し寄せてくる。
複数機ならまだしも、単機で突っ込むのはやはり無謀だったか。
まあいい、ここで全部を根絶やしにする必要はない。時間が稼げれば、それでいい。
箱舟が発進すれば、あとはもうどうだってよくなる。ボロボロのスクラップになろうとも、構いはしない。
後方に迫ってきた数体が、黄緑の粘液をブシュッと吐き、それが僕の足元を掠めてブーツと表面のスキンを溶かす。
同時に、前方から一体が口腔を広げて突っ込んでくる。そこで回避の動作に繋げる、はずだった。だが、次の瞬間、ばらばらと動き回る尾が僕の腕と脚に巻きついた。
こいつら、連携でもしているっていうのか。後頭部を丸呑みされる前に、僕を捕縛しているバカタレどもの尾を掴み、思いきり引き寄せ、背負い投げの要領で群れの中へ投げ飛ばす。
「次から次へと……」
刃が駆け、黒い外殻を砕き、また黒い波がターミナルへ押し寄せる。
一秒でも長く。一体でも多く。一撃でも効率的に。
数分もしないうちに僕の周囲はタナトスの残骸で埋まりだす。
テクナが技術の粋を用いて最後に生み出したのがこれとは、そしてそれを機械兵の僕が始末するというのは、皮肉の重ねがけが効きすぎて、なかなかに、
滑稽――、
「ライ君ッ――‼︎」
……。
ほんとうに。こういうお約束の展開はやめてほしいな。
とっくに息の根を止めたと思っていた、足元に転がっていた個体が、最後のひと絞りか、僕の真横に粘液を吹きかけてきた。
想定外の最後っ屁。いや、この場合は吐瀉物か。
それに対応できず、視界が黄緑に染まる。ジュウウウッと半身が一気に溶けだし、その次の瞬間、束になって飛びかかる化け物どもに飲み込まれた。
ちょっと短すぎたかな。
まあいい、これで十分だろ。
乗り込んでるよな、ノルニル。
ああ……。
結局、最後まで伝えることができなかった。
ユニット各部の損壊を知らせる警告アラートで視界が赤く染まるなか、左胸の中枢部だけは守るように手を伸ばす。
セシャット、ノルニルにあなたを返すことができなくて、すまないと思う……。
でも、約束は果たした。
彼女はあなたが創った箱庭の楽園から飛び出し、そして今、この星を旅立っていく。
無事、仲間と合流できるかはわからないけれど、後のことは箱舟のノアに託す。きっと彼女を、安全な星まで届けてくれる。
トート博士。
あなたの言う通り、生存者を僕は助けたよな?
借り物の感情と、プログラムに翻弄されながらも、あなたたちの願いを運び、届けたよ。
これで……任務、完了。だよね。




