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アストライト・ジャーニー ~終星の魔女と機械兵~  作者: 天野 肇
第7章 箱舟のノア・リトル

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7

 敵を殲滅《せんめつ》するために造られた体《からだ》が、最大出力に到達すべく全ての回路を一斉に駆動させる。


 静かに左足を引き、切っ先は床をなぞるように捉え、刀の刃は上向きに。


 刀身を右脇へ低く隠す──“陽の構え”をとる。


「戻ってきて――‼︎」


 その叫びに振り向くこともせず、僕は崩れた床を蹴り抜いた。

 最初に飛びかかってきた一体を顎下から斬りつける。

 振り上げた『鬼殺し』が、黒い外殻を斜めに裂き、返す刃で二体目の前脚を落とす。

 そのまま体を半転させ、勢いを纏ったまま背後から迫る一体の胴を突き穿ち、刀身にまとわりついた体液を素早く払い、喰らいつくように次の個体を迎え撃つ。


 頭部ユニットの演算が導き出した最短距離。無駄のない足運び。切断に必要な角度と速度で組み上げた、殲滅の型。

 砲撃で群れの前列を吹っ飛ばし、間合いへと滑り込む。

 飛びかかってくる奴らを刃で薙ぎ払い、それでも間に合わなければ、肘で砕き、膝で潰し、蹴り伏せた。


 ただ、奴らも馬鹿ではないらしい。正面だけではない。左右、後方、さらには天井の崩れた配管からも回り込んでくる。

 斬っても斬っても黒い波は、途切れない。

 ベルトコンベアーみたいに、次から次へと押し寄せてくる。

 複数機ならまだしも、単機で突っ込むのはやはり無謀だったか。

 まあいい、ここで全部を根絶やしにする必要はない。時間が稼げれば、それでいい。


 箱舟が発進すれば、あとはもうどうだってよくなる。ボロボロのスクラップになろうとも、構いはしない。

 後方に迫ってきた数体が、黄緑の粘液をブシュッと吐き、それが僕の足元を掠めてブーツと表面のスキンを溶かす。

 同時に、前方から一体が口腔を広げて突っ込んでくる。そこで回避の動作に繋げる、はずだった。だが、次の瞬間、ばらばらと動き回る尾が僕の腕と脚に巻きついた。

 こいつら、連携でもしているっていうのか。後頭部を丸呑みされる前に、僕を捕縛しているバカタレどもの尾を掴み、思いきり引き寄せ、背負い投げの要領で群れの中へ投げ飛ばす。


「次から次へと……」


 刃が駆け、黒い外殻を砕き、また黒い波がターミナルへ押し寄せる。


 一秒でも長く。一体でも多く。一撃でも効率的に。


 数分もしないうちに僕の周囲はタナトスの残骸で埋まりだす。

 テクナが技術の粋を用いて最後に生み出したのがこれとは、そしてそれを機械兵の僕が始末するというのは、皮肉の重ねがけが効きすぎて、なかなかに、

 滑稽――、


「ライ君ッ――‼︎」


 ……。

 ほんとうに。こういうお約束の展開はやめてほしいな。

 とっくに息の根を止めたと思っていた、足元に転がっていた個体が、最後のひと絞りか、僕の真横に粘液を吹きかけてきた。

 想定外の最後っ屁。いや、この場合は吐瀉物《としゃぶつ》か。

 それに対応できず、視界が黄緑に染まる。ジュウウウッと半身が一気に溶けだし、その次の瞬間、束になって飛びかかる化け物どもに飲み込まれた。


 ちょっと短すぎたかな。

 まあいい、これで十分だろ。

 乗り込んでるよな、ノルニル。

 ああ……。

 結局、最後まで伝えることができなかった。


 ユニット各部の損壊を知らせる警告アラートで視界が赤く染まるなか、左胸の中枢部だけは守るように手を伸ばす。


 セシャット、ノルニルにあなたを返すことができなくて、すまないと思う……。


 でも、約束は果たした。

 彼女はあなたが創った箱庭の楽園から飛び出し、そして今、この星を旅立っていく。

 無事、仲間と合流できるかはわからないけれど、後のことは箱舟のノアに託す。きっと彼女を、安全な星まで届けてくれる。

 

 トート博士。

 あなたの言う通り、生存者を僕は助けたよな?

 借り物の感情と、プログラムに翻弄されながらも、あなたたちの願いを運び、届けたよ。

 これで……任務、完了。だよね。

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