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「でも少なくとも、この地下都市から誰かが脱出しているはずなんだ。どこかで集まって暮らしている可能性が高い。ここから出て、僕たちは彼らを探したいんだ」
『ダメなのデス。ここでワタクシどもを使って旅立ったということは、彼らを探しても無駄でございマス。彼らはもう、この星のどこにも存在しておりません。』
「君はここでスリープ状態でいたんじゃないか。なにを根拠にそんな……」
『根拠はありマス。彼らがこのターミナルでワタクシどもを起動させ、星の外へと飛び立ったからデス。』
「君、まさか……」
僕が人間だったなら、ここで冷や汗を流しただろう。
「箱舟って……飛空艇じゃ、ないのか」
『ええ。おっしゃる通り。ワタクシは緊急脱出用小型艇。この枯れた星を捨て、安住の地を求めて旅立つために造られた箱舟なのデス。』
緊急脱出用。この星を捨てる。ノアは飛空艇ではなく、星の外へ出るための船だった。
僕とノルニルは顔を見合わせる。
「じゃ、じゃあ。みんな宇宙に旅立ったってことなのか」
『この様子だと、そうなのでしょう。神々は言っていました。もう大地を蘇らせることは不可能。地下に逃げてきた者たちだけが最後の希望。希望が潰える前に星を捨て、新たな緑と水に満ちた星を目指そうと。』
それが本当なら。ここに生き残った者たちは、タナトスが地上を襲った頃か、あるいはその前から、枯れた星を手放す計画を練っていたのだろう。
こんな大量に造っておくぐらいだ。地上のほぼ全てが壊滅的なのは、火を見るよりも明らかだった。
「じゃあ、テクナやマギアの生存者は……いくら探しても」
この星には、もういない。
遥か彼方、想像もつかない遠い遠い銀河に、新たな大地を求めて三百年も昔に旅に出た。僕や、彼女を置き去りにして。
『それと、その。……あの、“これ”は大変申し上げにくいことなのデスがぁ……。』
ノアの音声が、そこでわずかに小さくなる。
『んぐぐぐ……。』
「どうした」
『それが……お客様を運びたいのはやまやまではあるのデスが……当機は、小型艇、一人乗り用なのでございマスよ。』
…………なんだって。
「一人乗りって……一人だけしか乗れないってこと⁉︎」
『ええ。当機はもともと、先の大戦で使用される予定だった使い捨ての特攻機でございました。状況が変わり、神々たちの手によって脱出用の小型船へと生まれ変わりはしましたが……おそらく、彼らには時間が足りなかったのでしょう。機体内部の構造はほぼ当時のまま。耐超加速用の固定座席は、一名分しか備わっておりません。したがって、正規にお乗りいただけるのは、あなた方のどちらか、お一人だけなのデス。』
「じゃあ乗れなかったもう一人は⁉︎」
『それは……ここに残られることに。』
「いや、そんなこと」
僕らはノアに向かって身を乗り出す。
「ここまで来て一人乗りって、冗談だろ」
『本当にそうなのデス。お二人を、どうしても乗せることができないのデス……』
「ケチんぼなこと言わないで乗せてよノア! 困るよそれじゃあ!」
『いや、デスがぁ……』
「他に動ける機体はないのか」
まだ調べていないハッチが僅かだが残っている。僕が首を伸ばすと、ノアの声は本当に困り果てたものになっていく。
『先ほどスキャンいたしましたところ……そのう。稼働可能な機体は……ワタクシだけのようで……』
「そんな……」
「なんとかして二人乗れないのか」
「狭いのとか気にしないよ!」
『たとえ無理やりお二人を乗せることができたとしても、この地下から脱出する際、自動で超加速――ハイパードライヴモードへ移行することになっておりマス。通常推力だけでは、大気圏を突破することができないからデス。』
そこで重厚な音を立て、側面の扉が開け放たれ、機体の中が僕らに晒された。
様々な機材に囲まれて、その中央にどんと一つ、乗り心地の良さそうな座席があった。
ノアの言うとおり、二人分のスペースは頑張ってもなさそうだ。
『この座席は、急発進、急加速、急停止、ハイパードライヴ時の加速と重力変化に耐えられるよう、特殊なベルトでお客様の体を固定しマス。これを使用しなければ、重力変化に耐え切れず……生身はおろか、機械兵のお客様でも。』
ぺちゃんこの……グチャグチャってわけか。
「ノア、大気圏なんか突破しなくていい。とにかくここから外に出たいんだ。モードを切り替えることはできないのか」
『残念ながら、そちらも対応いたしかねます。一度発進してしまえば、当機は離脱軌道へ移行いたしマス。設計上、引き返すことも、大気圏内を自由に航行することもできません。当機は、この星から脱出することを最大の目的として造られておりますゆえ……』
これは、由々しき問題だ。




