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途切れた記録の最後には、博士が実行した研究データが残されていた。
僕は、表示された文字列を見つめたまま、立ち尽くしていた。
RAIJIN-KG315677。
間違いなく、それは僕のことだった。
胸部中枢への移植。
星命ノ輝石。
セシャット。
「……僕の、中に、……」
ノルニルの姉の輝石が……。
胸部中枢の奥が、どくりと疼いた。
思わず、左胸のあたりを掴む。
博士の約束を運ぶため。
セシャットの願いを、ノルニルのもとへと届けるため。
博士は、そのために僕を造り替えた――。その理屈だけならば理解できた。
だが、すぐに情報の全てを処理しきることはできなかった。
以前の僕であれば、見知らぬマギアの命の核が自分の胸部中枢のパーツとして組み込まれていたと知っても、なんとも思わなかっただろう。
それどころか、生身の体で持ち出すのが難しいなら、機械の体を器にして持ち運ぶ方が合理的だろうとさえ思っただろう。
しかし、今は違う。
僕は機械として、すでに手遅れなほど感情プログラムの拡張を許してしまっていた。
セシャットは、誰かを傷つけることを拒み続けていた。
壊すためではなく、生かすために魔法を使い続けた。
そう、嬉しそうに話していたノルニルの顔ばかりが浮かぶ。
大好きだった姉。
それ故に、たったひとりで三百年待ち続けた。
そんな最愛の人の星命ノ輝石が、よりにもよって僕の中にある。
兵器である、この僕の中に。
もしも、この事実を彼女が知ったらどうなる。そして僕は、この真実を抱え、セシャットの命の欠片を抱えたまま。
ノルニルの前で、どんな顔をすればいい。今まで通りに名を呼ばれていいのか。
僕の冷たい手首に腕を絡め、ぬくもりを分けるように、頬ずりするノルニルの顔が浮かぶ。
彼女に触れて、彼女を背負い、隣にいてもいいのか。
わからない。
いくら頭の中でプログラムを急かしても、答えが出ない。
それでも、一つだけ否定できない考えが浮かんでしまった。
僕がこれまで、ノルニルにしてきた行動。
彼女を助けたこと。
頬の泥を拭ったこと。
料理を振る舞ったこと。
眠る彼女の顔を、当然のように眺めたこと。
それらは本当に、全部僕の判断だったのか。
それとも、僕の中にあるセシャットの輝石が、妹を守ろうと僕を動かしていただけなのか。
博士が施した感情プログラムが、そう動くように僕を導いていただけなのか。
そう考えれば、これまでの自分の不可解な動きにも、説明がついてしまうような気がした。
こんな、処理しきれない感情など、機械の僕には不要なはずだった。
人間の思考は複雑すぎる。悲しみも、愛も、後悔も、約束も、どれも僕の中では正しく理解ができない。
だからこそすべて――ノルニルに返すべきなのではないか。
彼女が三百年待ち続けた姉の一部を、兵器である僕がこれ以上、持ち続けていいはずがない。
今すぐに、胸部外装を引き剥がしてでも。
この輝石を、彼女のもとへ返すべきなのではないか。
衝動的に胸部外装に指を立てた――その時。
遠くで、甲高い悲鳴が上がった。




