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モニターの画面が何度か激しく乱れ、砂嵐の奥で、古い文字列が組み上がっていく。
欠けた部分を無理やり繋ぎ合わせるように、画面の端が歪な音を立てて明滅を繰り返す。
《隔離データ展開中》
《復元率:四十二%》
《一部データに欠損あり》
それは、動画ログの続きではない。
研究記録でも、施設管理データでもなかった。
トート博士が、あんなパスコードまでかけて頑なに守り続けたデータ。
それは――、
《Record 21██.03.1█》
彼女と再会した。
正確には、再会などと呼べるものではなかった。
軍は彼女を捕虜として、この地下都市へ連れてきたと言う。
清潔な個室。温かい食事。治療に必要な道具。負傷兵の処置を任されるだけの自由。
それだけを見れば、彼女は丁重に扱われていた。
だが、扉の外には常に監視の兵が立ち、魔法を使えば記録され、検査を拒む権利もない。
名目上は、魔法医療技術の重要提供者。および、保護観察対象。
だが、軍上層部が彼女を見る目は、医療のために協力を求める者のそれではない気がするのだ。
これは、技術者としての嫌な勘だ……。杞憂であってほしい。
《DATA LOST》
《Record 21██.03.2█》
戦場で出会った時と同じように、セシャットは今日もテクナもマギアも分け隔てなく治療している。
自分を閉じ込める、憎いはずのテクナ兵の傷まで……。
彼女の魔法は、本来、傷を癒やすものではない。
空間を切り取り、繋ぎ、隔てる魔法だ。
だが彼女は、その力を医療に注ぎ、命を助けることを選んだ。
彼女がその気になれば、この地下都市を破壊することは難しいことではないはずだ。
だというのに……彼女は、壊さず、傷つけないことを今も選択し続けている。
いずれ、この戦いが終わることを信じて。
自分ができなかった選択をし続ける彼女の強さを時折眩しく思うと共に、私は、目を離せずにいる。
《|DATA CORRUPTED《データ破損》》
《Record 21██.04.0█》
彼女は度々、故郷に残してきた歳の離れた妹の話を聞かせてくれた。
病を患い、脚が弱く、一人では歩くことができない。
絵本が好きで、星が好きで、おてんばで、自分の作る料理を最後まで食べてくれる子だと。
料理の話だけは、流石に信じられなかった。
今日、彼女に出された煮込み料理は、殺戮兵器かと思うほどの出来栄えだった。あれを全て平らげる彼女の妹が様々な意味で心配になる。
などと、うっかり口にしてしまったらフライパンを脳天に降らされそうになったため、慌てて謝罪をすることに。
この狭い牢獄のような地下都市で彼女と過ごす何気ない時間が楽しい。だが、
妹のことを語る彼女の笑顔。その瞳にはいつも、遠い場所を見るような陰があるように思う。
《Record 21██.04.1█》
いつか、戦争が終わったらノルニルを箱庭へ迎えに行きたい。
その時は、一緒に来て欲しい。
あの子に、あなたを紹介したい……そう彼女は言ってくれた。
私も、心からそんな日が来るのを願う。
どうか一日も早く、彼女が愛する人と再会し、本当の笑顔で笑ってくれたらと思う。
そこに私がいなくてもいい、彼女には誰よりも幸せであって欲しい。
《Record 21██.0██》
あの情報が本当ならば、大変なことになる。
いったいどうすればいい。
いや、落ち着け、軍の情報をもっと深くまで慎重に探るべきだ。
どうか、間違いであってほしい。
《Record 21██.05.21》
セシャットを故郷へ帰す。
これ以上、彼女をここに置いてはおけない。
やはり、軍上層部は彼女の魔法ではなく、彼女の星命ノ輝石を狙っている。
上層部の極秘データをハッキングして出てきた計画書と、輝石摘出装置の完成報告に彼女の名前が記されていたのを私は知ってしまった。
このままでは彼女が危ない。
一刻も早く、彼女をここから連れ出し、軍の手の届かぬ場所へ逃すしかない。
成功率は極めて低いだろう……。
それでも、やらなければならない。
《DATA LOST》
《DATA LOST》
《Record 21██.05.2█》
失敗した。
すべて私のせいだ。
すべてわたしのすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべて
わたし が、
《DATA CORRUPTED》
《Record 218█.06.0█》
彼女が死んだ。
殺された。
上層部は、最初から彼女の輝石を奪うつもりだったのだろう。
逃亡未遂は、都合のいい口実に過ぎなかった。
危険因子。
管理不能マギア個体。
技術主任を惑わせた魔女。
彼らは彼女をそう記録し、正当な処置であるかのような顔をして、彼女から輝石を摘出した。
こんな結末を望んだわけではない。
あんなものを作らせるために……私は、軍に協力していたわけではない。
私は……。
なぜ、こんな、ことに
《Record 21██.06.04》
彼女の最期の言葉は、妹を自分の代わりに守ってほしいという願いだった。
ノルニル。
あの子を、一人にしないでほしいと。
私は彼女に約束することしかできなかった。
必ず守ると。
必ず、彼女のもとへ行くと。
どんな手を使ってでも……。
どんな罪を背負おうとも。
必ず。君の妹だけは守る。
《DATA LOST》
《Record 218█.06.2█》
セシャットの星命ノ輝石を回収した。
そして私は、この件に関わる全ての記録を改竄した。
露見すれば、軍規違反どころでは済まないだろう。
だが構わない。あのまま上層部の管理下に置かれれば、いずれ兵器として彼女の輝石は必ず利用される。
彼女が最後まで拒んだことを、彼女の死後に強いることになる。
そんなことは絶対にさせない。
《Record 21██.07.1█》
軍はすでに私を疑っている。
地下都市から出ることは許されず、逃亡防止用の小型爆弾を仕込まれた腕輪まで嵌められた。
私がここを出ようとすれば、その時点で終わる。
そうなれば、セシャットとの約束も、取り戻した星命ノ輝石も、すべて軍の手へと戻るだろう。
それだけは、絶対に避けなければならない。
この体で、彼女の大切な人に会いに行くことすら、私にはもうできそうにない。
なれば――、あの機体を、私の代わりに行ける者へと造り替えるしかない。
軍を欺き、この地下都市から自ら出て行くことができる。
彼女の輝石を安全に運び、戦場を越え、崩れた世界を歩き、必ずノルニルのもとへ辿り着ける存在として。
そして、あの子を守れるだけの強い力を持ち。
私よりも壊れにくく、彼女の願いを抱えたまま前へと進める者として。
そのためには、私はまた罪を犯さなければならない。
セシャット…………すまない……、この計画が成功してしまえば、私は君に一生詫び続けなければならない。
約束を守るためとは言え、こんな方法しか思いつかない私を君は……、
《Record 21██.██.██》
この記録を読んだ時、君は私をひどく軽蔑するのだろう。
だがそれでいい。
私の行いは、結局全てエゴの積み重ねでしかないのだろうから。
いくらでも憎んでくれて構わない。
それでも、私は、君が、自分で選█することを███
《機体識別:RAIJIN-KG315677》
《星命ノ輝石の移植成功》
《ヒト感情プログラム、実装完了》




