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アストライト・ジャーニー ~終星の魔女と機械兵~  作者: 天野 肇
第6章 アストライト

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『頼む……ッブツ――……生き残ってくれ! 一人でも多く! 生き延びて此処を出てくれ! ッ……ブツ……、辛いだろう、苦しいだろう、怖いだろう――でもここで諦めてはいけない! 何故なら君たちは生き残った、無益な争いで命を落とした者たちが生きたかった今を生きている! 絶対にその命は無駄にしてはいけない、絶対にだ――!』


『トート博士ッ――‼︎』


 彼の訴えに被せるように、ひどく取り乱した様子の若者の声が突っ込んでくる。


『早く逃げて下さいッ……‼︎ 危険です‼︎ 奴らはもうすぐそこまで来ているんですよ⁉︎』

『君も早くターミナルに向かいなさい‼︎』

『あなたもです! なにを考えているのですか‼︎ こんなところにいたら――』

『女性や子供たちのぶんまで席が残っているか心配なんだ。だから、大罪人は最後に乗り込むことにするよ。それよりも、この騒ぎで道に迷っている者がいるかもしれない。導かなければ』

『今はそんなこと気にしている場合では‼︎ 逃げましょう‼︎ 小型船もまだあります、行けば間に合います! 博士‼︎』

『構わずにいきなさい! 私もすぐに行く――、ああ君…………これを先に持っていってくれないか、あとで返してくれ』

『こ、これはっ』

『私のひみつの日記帳を隠してある部屋の鍵なんだ。失くしてしまうかと思うと気が気じゃなくてね。頼む、大切なものなんだ。……さあ、これで口実ができたね。行きなさい――‼︎』

『トート博士ッ――‼︎』



『こちら居住区N-B二〇五号室、居住区N-B二〇五号室! 聴こえている者がい……ブツッ……たらただちにターミナルへ向かい、箱舟に乗り込みたまえ! 決して最後まで諦めないでくれ! 私もまだ諦めてはいない! 足を動かし前進してくれ! きっとやれるはずだ! 生を掴み取る力は誰にで――、も備わっているのだから! 一人でいる者は自分を信じるんだ! 仲間といる者は仲間を信じ、諦めかけている者は此処にいる私を信じて立ち上がってくれ! 私は此処で君たちの勇気を讃え――ブツッ――そして祈っている――‼︎』


 画面から飛び出しそうな爆音が鳴り響いた。


『幸運と健闘を――……』


 ブツリ――、とそこで動画は途切れ、モニターはなにも映さなくなった。

 今のは、トート博士が残した動画ログ……。

 ターミナル、箱舟、逃げる、危険……。嫌な予感しかしない。

 なにかが、起こったのだ。


 この居住区から地下都市全体にかけて。

 ここにいた者たちがこの地下都市を捨てなければならない……ただごとじゃないなにかが。

 あのトート博士の叫び声。

 必死にターミナルへ向かうようにと誘導していた。箱舟……ということは、この下に脱出用の箱舟があるのか。

 それに気になるのは、テクナとマギアに、等しく乗る権利があると言っていたこと。

 ということは、両種族ともこの地下都市にいた……?

 シェルターとも言っていた……。

 トート博士……ッ。

 もっと……他になにか、なんでもいい、他に……彼に繋がる記録はないのか――、

 砕けたキーボードに手を置いた瞬間、掌の内側を細い信号が走った。


《機体識別:RAIJIN-KG315677》

《照合完了》

《胸部中枢内、星命ノ輝石(アストライト)の反応を確認》

《輝石識別:Seshat》

《隔離データを検出》


「セ、……シャット……?」


 それは……ノルニルの姉の名だ――。

 どうして、その名がここに。僕の胸部中枢の反応から、その名前が出てくる。

 問いを重ねるより早く、画面が切り替わり、パスコードを要求される。


[SECURITY(認証) QUESTION(質問)]

[Name of (彼女が)the one(最も愛) she(した) loved(者の) most.(名は)]


 彼女が最も愛した者の名――。

 どういうことだ。誰のことを言っている。

 一体、この隔離データに何を隠している――。

 セシャットって……。

 その時、記憶の奥で博士の声がした。


『私は昔――ある、一人のマギアと出逢って……親しい間柄になった――』

『私は彼女を確かに愛していたんだ……』


 遠い昔。博士が僕に聞かせてくれた話――。


『セーシャお姉ちゃん……、本当の名前はセシャットなんだけど』

『……とても、大切だった……誰よりも』

『お姉ちゃんは戦争に行っちゃった。すぐに帰るって言ったのに、戻ってこなかった……』


 ノルニルと博士の声が交互に蘇り、ばらばらだった情報が、浮かび上がり、繋がっていく。

 僕はセシャットを知らない。

 博士と、彼女の間に何があったのかも知らない。

 けれど、ひとつだけ。

 僕は、ついさっき、偶然か必然か。


『ぼくのこと、いつも大好きだよって言ってくれた』


 この記録を開くための鍵を、手に入れていた。

 砕けかけたキーに指を置く。


《NORNIR》


 入力した瞬間、画面が一度だけ強く明滅した。


[ACCESS(認証) GRANTED(完了)]

[Welcome(おかえ) back(り), dear ones(大切な君たち).]


 画面に浮かんだのは短い文字の並び。

 君(・)た(・)ち(・)。

 その言葉の意味を、まだこの時の僕は理解できていなかった。

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