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「都合のいいおとぎ話だな」
「うわっ、ライ君、ドライだな~、夢なさすぎ」
「機械兵にそんな幻想、求めないでくれ。百年彗星は確かにあるって聞いたけど、それが生物だって観測情報はない」
テクナとマギアの創生の歴史を題材にした親しみやすいストーリーだが、宇宙クジラなんて、子供の気を引く絵本の中だけの存在だ。
ま、大人のトート博士も気に入ってたみたいだけどさ。
「でも、わかんないよ。あの七色に輝く彗星は、ほんとうに宇宙クジラかもしれない。もしそうだったらステキだよねぇえ」
「どうだかね。そういうリリカルな思想は理解しかねる」
「今の流れは、きっとそうだよって同意するところでしょーが!」
「もう眠りなよ。望み通り話してやったろ」
「ファーッ、つまんないの! このいけず! 頭カッチカチのメシマズ機械兵!」
なん、だ⁉︎ そのナンセンスな悪口は‼︎
僕が拳を握って見せれば、ノルニルはきゃっきゃと笑いながら、背を向けた。
「ほんとに寝ろよ。明日は七時起きだ、アラームをセットした。二度寝は許さない」
「ほーいほいほい。それでは、シートベルトとセーフティバーを下げまして~、夢の国にーーーーッ‼︎ 全速前進ーーーーッ‼︎」
「いいから寝ろ――‼︎」
床を一発叩いて、ようやく静かになった。やれやれまったく。
「…………ねえ…………ライ君、いっこだけ」
「今度はなんだよ」
「こっちに来て、手をちょうだい」
言われるままに近づき、腕を伸ばすと、ノルニルは僕の手首を小さな両手で捕まえ愛おしそうに頬擦りして、枕にした。
「こういうの久しぶり」
「硬くて頭痛くなるんじゃないのか」
「いいの、寝心地最悪だけど、いいの」
「あ、そ……」
「ふふ、ねえ……宇宙クジラがさぁ、もしほんとうにいたら、ぼくも仲良くなってお願いしたいよ」
「…………なにをさ」
「テクナとマギアが、戦争をする前に時間を巻き戻して欲しいって。戦争をする前の、仲良くしていたころに」
「…………」
「そうしたら、みんな幸せだよね。きみも嬉しいでしょ。正しい願いだよね、これ……」
「消えた命は、魔法でも取り戻せないんだろう」
「でも、宇宙クジラなら……きっと……それ、できるよ……」
「……」
「宇宙クジラ…………ぼく、あいたいな……」
炎が弱まるようにして、彼女は今度こそ眠りについたようだ。
床は思った以上に冷たい。オイルランプの炎だけでは暖はとれない。
僕はそっと腕を引き抜き、配給品のジャケットを脱いで彼女の体にかけてやった。
数分後。完全に深い眠りに落ちたことを確認して立ち上がる。ここにいてくれとは言われたけれど、このままなにもせずに夜を明かすということは時間の浪費もいいところだ。機械兵に動物と同じような睡眠欲求は存在しない。
充電速度を上げ、完全に外部の情報をシャットダウンするスリープモードと、全機能の処理速度を半分にしてエネルギーの消費を抑える省エネモードがあるが、廃れた地下都市といっても、なにが起こるか把握しきれない。ここで無防備になることはタブーだ。
朝になるまでエネルギーの補給ができないため、無駄に消費することは避けたいが。
戦闘モードにならなければ問題はない。
どうしてもすぐに調べたいことがあるんだ。
彼女は疲弊している。放っておいても朝までぐっすりだ。
座標もしっかり登録してあるし。どんなに迷路のような場所でも、ここには帰ってこれる。
音を立てぬように歩いて、食料庫から出て、僕は居住区を目指した。
研究施設の最奥から居住区方面へ進み、右の曲がり角を直進し、左折して、また右に進む。
居住区、北区画B棟、二〇五号室……。
僕の記憶が狂っていなければ。
そこにあるはずなんだ――彼の。
トート博士の私室が。




