5
気密状態を保つ特殊加工された保管ポッドの中に、二重で加工包装された食材と調理器具。
組み立て式の調理台に、小型コンロ、包丁、まな板、鍋、エプロンまで出てきたぞ。
そのままレトルトパウチが出てくるかと思いきや、一から調理が必要なタイプだったか。
手間は掛かるが、これは保存料に頼らず、味を損なわないための配慮なのかもしれない。
米に、野菜に、肉の塊、ボトル入りの飲料水、固形のカレールウ。材料もきっちり揃っている。
どれもこれも、三百年保管されていたとは思えない。野菜はついさっき収穫したみたいにツヤツヤしているし、肉も色がいい。米も水も調理器具も、少なくとも僕のセンサーで確認できる範囲では異常はない。
「びっくりだね! これってほんとうに三百年前につくられたものなのかな?」
「ああ、製造日がポッドの底に刻まれているからな。間違いない」
「それで……色々出したはいいけど、どうするの」
玉ねぎ、人参を見比べて尋ねてくるノルニル。
「そんなの決まってるだろ。作るんだよ」
「あんまり無理しなくていいよ。ぼくは生でも平気だからさ」
こらこら、人参を囓ろうとするなよ。
「だってライ君、料理なんてできないでしょ。ぼくは一通りしてきたけど、カレーの作り方なんて忘れちゃったし……」
なんかちょっと腑に落ちない言い方するな。
「誰が作れないって」
僕は包丁をクルッと回して握り、ポッドの底にあった薄いマニュアルにざっと目を通す。カレーのレシピなんて、切る、焼く、煮るの基礎を集めただけの単純工程によって成り立っている。苦戦を強いられることはまずない。
いいだろう。
手順は覚えた、ぬかりはない。
「この程度、僕にとっては充電前だ――」
必要性があるかないか疑問なやけにヒラヒラがくっついたエプロンを、「つけなきゃダメ!」としつこく言われて、つけてみたけど。機械兵がエプロンつけるって、これどんなシュールな画なんだか。
床に腰を下ろしたノルニルは、後ろでニコニコしながら僕の調理を眺めている。
包丁なんか生まれてこの方、握ったことはないけど、サバイバルナイフなら扱ったことはあるし、マニュアルに沿えばだいたいは、うまくいく。
野菜は小さすぎず大きすぎず、ぶつ切りに。肉と玉ねぎを先に炒めて、あとから人参、煮崩れしやすいじゃがいもの順に鍋に放り込む。水を入れ、火にかけ、ふつふつ浮かんできたアクを小まめに取る。
「うっわ、ねえ、手際良すぎない? きみ本当はお料理アンドロイドなんじゃないの?」
「む……機械兵にとっては最高に不名誉な言葉だ……」
……なんだろうな。確かに、そう、初めてこんなことをするはずなのに、なんだか自分でも妙に落ち着くというか。こうすること自体、久々な気がするというか……そんなはずないのに。変な感覚だ。
「ライ君ってさ、なんでもできるんだね」
「マニュアルさえあれば、それなりにこなす自信はあるさ」
鍋を引っ掻き回しつつ素っ気なく返す。
「なんか。そうやって料理してるところ見てると……お姉ちゃんみたいだ」




