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赤と黄色のよく目立つ色合いの缶に、ナイフとフォークを持ったちょっと情けない魚の絵が描かれている。
僕はそれをよく知っている。見たくないものの部類に入るから。
「そいつはやめておけ。悪魔の缶詰めだ」
「アクマ?」
「ああそうさ。開けたら最期、生まれたことを後悔することになるぞ!」
そいつは世界一の臭いと言われる缶詰め。中身はニシンの塩漬けで、発酵食品とされている。
名前は確か。『シュールストレミング』。屋内では決して開いてはいけないパンドラの箱が、なぜここに……。
ああもう、見るだけで思い出してしまう。
僕が博士に拾われて間もない頃。嗅覚のテストだと言われて、よりにもよってこれを嗅がされたんだった。
それはもう、この世のものではないとさえ思える悪臭で、何日も放置された生ごみと、吐瀉物にまみれたぞうきん、掃除されていないトイレ、それらを圧縮して閉じ込めたような。例えるならばまさに殺戮兵器。
機械だがあまりの臭気指数に鼻がへし折れ、再起不能になるかと思ったくらいだ。そしてそのあまりの不快さに、ガスマスクを付けた研究員の何人かを僕は殴った。
「ライ君……大丈夫? なんか固まっちゃってるけど」
「いいから元の位置にそっと戻せ。開けるなよ、絶対に開けるなよ」
「ぐっ……」
「開けるなよ⁉︎」
こっそりプルトップに爪を引っかけるな‼︎ 死にたいのか‼︎
わかっちゃいたけど、ここまでで一つもまともな収穫がない。
こんなにも有り余るほどの保存食に囲まれているというのに。そのどれもこれもが、既に期限を切らしている。
そりゃあ三百年も経っているんだ。これが普通なのかもしれないけれど。
「ん。待てよ、もしかしたら……アレがあるんじゃないか」
「どしたのライ君」
名残惜しそうにチョコレートとキャンディの箱を戻したノルニルを背負い直して、僕は食料庫の奥へ奥へと進んでいく。
僕の記録が正しければ、彼らは通常ではあり得ない発想で開発を行っていた。
その試作段階だったものが、あれから完成していれば……。
「おお……」
あった。あったぞ。信じられない本当にあった。
さらに奥の壁際に、黄色いドラム缶型のポッドが数十個、整然と積まれていた。表面には軍の管理番号と、非常食キットを示す古いラベルが残っている。そのうちの一つを引っ張り出して、僕は使用上の注意事項を確認する。
ああ、やっぱり。使用期限の記載がない。そうか、完成、させていたんだ。
「これは?」
「設計上、使用期限の設定がない非常食キットだ」
「っていうことは?」
「少なくとも開発者たちの想定どおりに機能しているなら、今でも料理が食べられるってことさ」
正確には、半永久保存用・ミールキットポッド。
食材の劣化を極端に抑える特殊包装と、内部の空気、温度、湿度を維持する独立式の保存槽。その中へ食材と調理器具一式をまとめて封入した、小さな食料庫を丸ごと缶詰めにしたようなものだ。
最初に聞いた時は、そんなこと実現するものかと思った。使用期限そのものを設けない保存食を作るだなんて。
若者の自由で無謀な発想だと僕は気にも留めなかったけど、トート博士は「夢があっていいじゃないか」と笑っていたっけ。
きっと彼がまた助力していたのだろう。だが今は、その自由な発想に救われた。若き技術者たちの栄誉ある発明と、優れた技術に感謝する。
ポッドは全部で四十個ある、中身は……ほお。
牛フィレ肉と十種の野菜のカレーライスに、生ハムとアボカドのサラダ、フォアグラのソテー、ローストビーフのバルサミコソース風、ビシソワーズ、野菜とエビとサーモンのテリーヌ、ホタテのバターソテー、などなど。
非常食だっていうのに、ふざけてるのかってぐらいの洒落たラインナップじゃないか。
ノルニルに何が食べたいのか聞くと、他はあまり聞き慣れていなかったのだろう。彼女はきょとんとしながら言った。
「カレー、食べられるの? ほんとに? カレーって、あのカレーでしょ?」
「ほかにどのカレーがあるっていうのさ」
「だって味とか完全に忘れちゃったから。響きもすごいなつかしいし、見た目も、あれだよね。黒っぽくて、どろっとしてる」
「そうだよ、そのどろどろしてるやつ。ご飯にかけるやつ。まあ、開発者たちが嘘をついていなければ、今に食べられるはずさ」
僕はポッドを片手で抱え、比較的広い場所で開封することにした。蓋の側面についていたバルブを回していくと、ブシュンと空気を受け入れる音が響き、扉が開く。なるほどね、これは驚く。




