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アストライト・ジャーニー ~終星の魔女と機械兵~  作者: 天野 肇
第5章 機械兵かんたんクッキング

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 赤と黄色のよく目立つ色合いの缶に、ナイフとフォークを持ったちょっと情けない魚の絵が描かれている。

 僕はそれをよく知っている。見たくないものの部類に入るから。


「そいつはやめておけ。悪魔の缶詰めだ」

「アクマ?」

「ああそうさ。開けたら最期、生まれたことを後悔することになるぞ!」


 そいつは世界一の臭いと言われる缶詰め。中身はニシンの塩漬けで、発酵食品とされている。

 名前は確か。『シュールストレミング』。屋内では決して開いてはいけないパンドラの箱が、なぜここに……。

 ああもう、見るだけで思い出してしまう。

 僕が博士に拾われて間もない頃。嗅覚のテストだと言われて、よりにもよってこれを嗅がされたんだった。

 それはもう、この世のものではないとさえ思える悪臭で、何日も放置された生ごみと、吐瀉物にまみれたぞうきん、掃除されていないトイレ、それらを圧縮して閉じ込めたような。例えるならばまさに殺戮兵器。


 機械だがあまりの臭気指数に鼻がへし折れ、再起不能になるかと思ったくらいだ。そしてそのあまりの不快さに、ガスマスクを付けた研究員の何人かを僕は殴った。


「ライ君……大丈夫? なんか固まっちゃってるけど」

「いいから元の位置にそっと戻せ。開けるなよ、絶対に開けるなよ」

「ぐっ……」

「開けるなよ⁉︎」


 こっそりプルトップに爪を引っかけるな‼︎ 死にたいのか‼︎

 わかっちゃいたけど、ここまでで一つもまともな収穫がない。

 こんなにも有り余るほどの保存食に囲まれているというのに。そのどれもこれもが、既に期限を切らしている。

 そりゃあ三百年も経っているんだ。これが普通なのかもしれないけれど。


「ん。待てよ、もしかしたら……アレがあるんじゃないか」

「どしたのライ君」


 名残惜しそうにチョコレートとキャンディの箱を戻したノルニルを背負い直して、僕は食料庫の奥へ奥へと進んでいく。

 僕の記録が正しければ、彼らは通常ではあり得ない発想で開発を行っていた。

 その試作段階だったものが、あれから完成していれば……。


「おお……」


 あった。あったぞ。信じられない本当にあった。

 さらに奥の壁際に、黄色いドラム缶型のポッドが数十個、整然と積まれていた。表面には軍の管理番号と、非常食キットを示す古いラベルが残っている。そのうちの一つを引っ張り出して、僕は使用上の注意事項を確認する。

 ああ、やっぱり。使用期限の記載がない。そうか、完成、させていたんだ。


「これは?」

「設計上、使用期限の設定がない非常食キットだ」

「っていうことは?」

「少なくとも開発者たちの想定どおりに機能しているなら、今でも料理が食べられるってことさ」


 正確には、半永久保存用・ミールキットポッド。

 食材の劣化を極端に抑える特殊包装と、内部の空気、温度、湿度を維持する独立式の保存槽。その中へ食材と調理器具一式をまとめて封入した、小さな食料庫を丸ごと缶詰めにしたようなものだ。

 最初に聞いた時は、そんなこと実現するものかと思った。使用期限そのものを設けない保存食を作るだなんて。

 若者の自由で無謀な発想だと僕は気にも留めなかったけど、トート博士は「夢があっていいじゃないか」と笑っていたっけ。

 きっと彼がまた助力していたのだろう。だが今は、その自由な発想に救われた。若き技術者たちの栄誉ある発明と、優れた技術に感謝する。

 ポッドは全部で四十個ある、中身は……ほお。


 牛フィレ肉と十種の野菜のカレーライスに、生ハムとアボカドのサラダ、フォアグラのソテー、ローストビーフのバルサミコソース風、ビシソワーズ、野菜とエビとサーモンのテリーヌ、ホタテのバターソテー、などなど。


 非常食だっていうのに、ふざけてるのかってぐらいの洒落たラインナップじゃないか。


 ノルニルに何が食べたいのか聞くと、他はあまり聞き慣れていなかったのだろう。彼女はきょとんとしながら言った。


「カレー、食べられるの? ほんとに? カレーって、あのカレーでしょ?」

「ほかにどのカレーがあるっていうのさ」

「だって味とか完全に忘れちゃったから。響きもすごいなつかしいし、見た目も、あれだよね。黒っぽくて、どろっとしてる」

「そうだよ、そのどろどろしてるやつ。ご飯にかけるやつ。まあ、開発者たちが嘘をついていなければ、今に食べられるはずさ」


 僕はポッドを片手で抱え、比較的広い場所で開封することにした。蓋の側面についていたバルブを回していくと、ブシュンと空気を受け入れる音が響き、扉が開く。なるほどね、これは驚く。


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