2
「結局のところ、未完成だったんだよ。あいつは最初、マギアを襲って食べた……。マギアがいなくなったら、今度はテクナを次々に襲い始めた」
「制御できなかったっていうのか」
「テクナもマギアも、最後は戦争じゃなくて、やつらを止めることに必死になった。でも誰もかなわなかった。その時にはもう、タナトスは強くなりすぎてたんだ。もともとはあんなに大きくなかったんだよ。でもマギアやテクナ……たくさんの命あるものを取り込んで、あんなふうに」
奴らは生命エネルギーに反応して体内に取り込むため、命あるものならばなんでも捕食するそうだ。
テクナやマギアだけじゃない。獣も、植物でさえも。
しかも、捕食対象がなくなっても討伐されない限り死ぬことはなく、繁殖をもするという。
星を終わりに導いたその生ける厄災は、いつしか人々の畏怖の象徴として“終焉をもたらす黒き死神”と呼ばれたそうだ。
「それが、両種族が滅びた真の理由か」
生命反応を微塵も感じなかったあの荒廃した大地は、みんなあの化け物たちが食い尽くして生まれたということなのか。
なんてことだ……テクナが滅びた本当の原因は、最後に使った兵器だったなんて。しかも自分たちが造ったものを制御できずに食われただと。そんなマヌケな理由で双方は滅びたというのか。信じがたい。そんなのあんまりじゃないか。
ノルニルは僕の背で小さく頷く。
「戦争を絵に描いてこの世界に現したようなものだったよ、やつらは。大地から自然が根こそぎ奪われて、住む場所がなくなって……生き残ったテクナも、マギアも、みんな逃げる場所を探してた。時には、マギア同士で争うことだってあった」
そこでノルニルの声が、少しだけ小さくなる。
「ぼくとおじいちゃんも、外にまだ生きてる人がいないか探したんだ。でも、そこでタナトスに見つかって……あの丘に逃げ帰るしかなかった」
ノルニルの姉が残したという、切り取られた箱庭の楽園。
「お姉ちゃんの作ったあのおまじないはね、とっっても強いの、箱庭を壊そうとするものだけは、絶対に入れないようになってるんだ」
だからこそ、あの丘だけはタナトスに食い尽くされずに済んだのだろう。
倒すための力ではない。ただ、あの小さな場所を守るための力。その守りが結果として、今日までノルニルをこの星に繋ぎ止めたのか。
「でも、それから少しして、おじいちゃんも死んじゃって……時間が経つたびにお姉ちゃんのおまじないも薄れてきて……たぶんぼくは、このまま誰にも気づかれることもなく、一人で死んじゃうんだろうなってもうあきらめてた。そしたらある日、ライ君が丘の上に立ってたんだよ……ほんとうにあの時はびっくりした」
そして、あれほど嬉しかったことはないと彼女は言う。
「ぼく、百年彗星にお願いしたんだ。どうか、まだこの星にぼく以外のだれかがいるなら、だれでもいいから会わせてくださいって」
「百年彗星……、百年に一度この星を回ると言われている眩い箒星のことか」
「うん、ぼく三回は見たよ。虹色に光ってて綺麗だった」
「それで三百年か……」
途方もない話だが。彼女の観測情報が正しいならば、そういうことになるのだろう。
僕はトート博士の言葉を思い出す。
戦争を悲しいと言って、外れない腕輪を眺めていた、僕と同じ彼の横顔。
テクナとマギアは、戦い合うことでなにを得たんだろう。
あの大戦で、どれだけの人が幸せになったんだろう。
機械の僕が人の幸せについて語るなんてこと、できないけれど。
あの何も残らず枯れ果てた星の姿を目の当たりにして。
なんとなくだが、あの時、博士が言っていたことは間違いじゃなかったのかもしれないと思う。
ほんとうの幸せなんてわからない。でも――。




