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──それから。
僕はノルニルを負ぶって、退廃した地下施設を薄く照らしながら歩き回った。
「ライ君は、口からなんでも出せるんだね」
そんなことを言うのは、移動する前に『鬼殺し』を納めておく黒い鞘を、口の奥から引きずり出したのを見たからだろうな。腰のベルトに差し込んだ『鬼殺し』に足先でちょっかいをかけながら、ノルニルは興味津々に聞いてくる。
「ね、ひょっとして、パンとかオニギリとか、食べれるものがぽろっと出てこないかな」
「あいにく僕はお弁当箱じゃないぞ」
腹が減ったのか?
「ここ……どこだろう、ね?」
あからさまに話をそらしたな。図星か。
「だって非常食どっかいっちゃったんだ‼︎」
ああ、そういえばさっきポシェットがないとか騒いでたっけ。
「家の鍵も、なくしちゃったし」
「鍵なんてなくったって、扉をこじ開ければ済む話だろ」
「そのあとどうすればいいのさ‼︎」
「君の魔法で修復させればいいじゃないか」
「あっ」
おいおい、それぐらいなんで思いつかない。
「うっ、うるさいな‼︎」
と、言った途端、彼女の腹の虫がまたも豪快に唸り声を上げる。
「心配しなくてもよさそうだ、ノルニル。今、僕は食料庫を探している」
「え、どういうこと」
「気になっていたんだ。この地下施設。土に分解されることのない床や壁の材質、テクナが使った痕跡。だからログに残っていた座標と今の位置を、さっき照らし合わせてみた」
そしたら、わかったことが一つ。
「ここは僕がいた地下都市の一部、テクナ軍所有の特別研究施設。恐らくラボ内のどこかだ」
人魔戦争が始まる前。大戦が長引くと懸念したテクナたちは、地中にテクナが避難できるシェルターや、安全に物資を保管し、武器や兵器を開発できる地下都市を創ったのだ。構造はアリの巣のようなもので、主に居住区だとか、軍備施設、研究施設、医療施設だとかにわけられている。
僕も全体を見て回ったことはないけど、一国が成り立つぐらいには広いと聞いた。
実際に歩いてみると、確かに巨大迷路みたいに入り組んでいる。こんなことならば、全体図をアップデートしてもらうんだった。
それにしても、やはりというか、生存者は相変わらず見当たらない。
さっきから信号を飛ばしてはいるけど、応答は相変わらずない。まあ、なにもかも停止してしまっているこの有り様を見れば、そんなことはわかるんだけどさ。
「なあ……聞いてもいいかい。あの化け物……タナトス――って言ってたよな」
自動ドアだったはずのものを片手でこじ開けて、今度は僕が彼女に尋ねる。
「あれはなんだ。あんなもの、戦争が始まった時にはこの世界には存在していなかったはずだ、なぜあんなものが……」
ノルニルは知る限りのことを僕に話してくれた。
「あれは……タナトスはね。テクナが戦争の最後に使った……生物兵器だったんだよ」
「あの化け物を、テクナが……?」
「二つの国がお互いに譲らないなかで、テクナ側がしびれをきらして、あいつらを地上に放ったんだ。ほんとうにひどいものだったよ……タナトスが地上に降り立ってから、全部が変わっちゃって……毎日が悪夢になりかわった……」
ノルニルの話によると。あの節足動物に似た化け物。タナトスは、もとはマギア殲滅用に造られた生きた兵器だったという。
マギアだけを狙い、テクナは決して襲わない。マギアの放つ攻撃魔法、補助魔法、その全てを吸収し、そして反射する。加えて、驚異的な生命力と、物理攻撃すら弾く圧倒的な外殻。巨体に似合わぬ俊敏さまで備えたそれは、まさに最終兵器として、マギアを追い詰める天敵となる――。
「……はずだったんだ」
「どういうことだ」




