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彼女に宿った力は、マギアの中でもかなり特殊で稀な存在だったはずだ。使いようによっては、いくらでも攻守を逆転させることができるのだから。
もしも彼女が、マギア側の戦力として戦場に駆り出されていたら。
戦況は大きく変わり、幼い彼女はあちら側の英雄として、歴史に名を刻んだかもしれない。
世界の理さえもねじ曲げてしまうその力は、戦争を指揮する者たちにとって、これ以上なく有益なものになり得ただろう。
「でもさ、言うほどこの力は自由になんでもできちゃうわけじゃないんだよ。きみも見たとおりネンピが悪くってさ、すーぐバテちゃう」
ノルニルは小さく肩をすくめる。
「時間を止めるのも、進めるのも、戻すのも、全部すっごく疲れる。ちょっとならできるけど、長くは無理。それに、りんごの種から一気に木に成長させるとかも無理かな。使う魔力が多すぎるから」
「なるほど……。力の質は飛び抜けていても、使い手が未熟なせいで、宝の持ち腐れ状態ってわけか……」
「ねえ、むずかしい言葉並べてるけど、すっごく意地悪なこと今言ったでしょ」
ジト目で見上げてくるノルニルは、乱れていた三つ編みをほどきだす。
「戻すのもそう。なんでもかんでも戻せるわけじゃないんだよ。色々ジョーケンもあるし。例えば今みたいに腕が取れちゃった場合、取れた腕が近くにあれば、ここに戻っておいでーってできる。でも、どっか行っちゃった腕を、何もないところからにょきって生やすのは無理。ぼく、そこまで神様じゃないもん」
「腕そのものが失われていた場合、欠損部だけを取れる前の状態に戻して復元することはできない、というわけか」
「うん。きみの場合は、取れた腕がちゃんと残っていれば、腕と体が繋がっていた状態まで戻すことはできる。でも、生き物の体だとちょっと厳しい」
言ってノルニルは、あんまり想像したくないなあ、と顔を顰めた。
「取れてからそんなに時間が経ってなければ、できなくもないけど、時間が経ちすぎたものはぼくにはどうしようもない。ほら、りんごもお肉も、時間が経つとだめになるでしょ……そういうこと。だから、ぼくにできるのは、こうしてほどいた三つ編みをまた編み直すみたいに、そこに残ってるものを、頭の中でわかっている形に戻すくらいなんだ」
そう言ってノルニルは器用にまた髪を編み込み、リボンで留めた。
「つまり、君の魔法は過去そのものを大きく改変することはできないけど、現在に残った対象の状態を、条件付きで過去の状態へ近づけられるということか」
「うん。たぶん、そういう感じ。直すのはほとんどイメージに頼ることになるから。そこもまためんどくさいんだよね。ぼくはまだ大人じゃないし、なんでも知ってるわけじゃないし、想像する力も弱い……だからきみを直すのにも、すごく長い時間がかかっちゃった。ぼく、機械のことなんてぜんぜんだから。おじいちゃんの本とか読んで、ちょっと勉強したんだけどね」
「そう、だったのか……」
「でも、よかったよ。時間の枠から完全に外れた誰かの命までは、ぼくは戻せないから。だからそこは、きみが人間じゃなくてよかったってほんとに思う」
そう言って笑って。ノルニルは僕の腰あたりに抱きついてきた。
「ありがとう、ライ君」
「急にどうした」
「きみはさっき、ぼくを守ろうとしてくれたん、だよね」
「……それは、別に、そんなことは」
「そうだよ。だってきみはあんなにボロボロだったのに、ぼくには傷一つないんだから。ありがとう。きみはぼくのことなんか嫌いだろうけど。うれしいよ、ライ君」
ありがとう、なんて。なんで、言えるんだ。
僕は…………さっき、君を――。
へへっと笑いながら腹部のあたりに擦り寄られて、なんだか、とてつもなく、悪いことをしてしまったような気持ちにさせられた。
戦いしか能のない機械兵を前に。
こんなにも敵意を抱かず、正直で、無邪気でいる彼女に。
痛覚なんかないのに、僕の中の擬似感情が、体中を締めつけるように反応する。
「ごめん…………」
「どしたの、ライ君」
きょとんとする彼女。
「どうして謝るの」
「なんでもない……なんでもないよ。ノルニル」
もう少しだけ。
彼女と共にいよう、そう思った。




